【仏教用語/人物集 索引】

ブッダ最後の旅 - 大パリニッバーナ経

投稿日:1999年2月15日 更新日:

【 第1章 】

1、鷲の峰にて

1 わたしはこのように聞いた。
ある時、尊師王舎城鷲の峰(霊鷲山)におられた。
その時、マガダ国王アジャータシャトル(阿闍世)は、ヴァッジ族を征服しようと欲していた。彼はこのように告げた。
「このヴァッジ族は、このように大いに繁栄し、このように大いに勢力があるけれども、わたしは彼らを征服しよう。ヴァッジ族を根絶しよう。ヴァッジ族を滅ぼそう。ヴァッジ族を無理にでも破滅に陥れよう」と。

(2005年に管理人が撮影した鷲の峰/霊鷲山)

2 そこでマガダ国王アジャータシャトルは、マガダ国の大臣であるヴァッサカーラというバラモンに告げて言った。「さあ、バラモンよ、尊師のいますところへ行け。そこへ行って、尊師の両足に頭をつけて礼せよ。そうして我が言葉として、尊師が健勝であられ、障りなく、軽快で気力あり、ご機嫌が良いかどうかを問え。そうして、このように言え、- 尊い方よ。マガダ国王アジャータシャトルはヴァッジ族を征服しようとしています。彼はこのように申しました。- 『このヴァッジ族はこのように大いに繁栄し、このように大いに勢力があるけれども、わたしは彼らを征服しよう。ヴァッジ族を根絶しよう。ヴァッジ族を滅ぼそう。ヴァッジ族を無理にでも破滅に陥れよう』- と。そうして尊師が断定せられた通りに、よくそれを憶えて、わたしに告げよ。けだし完全な人(如来)は虚言を語られないからである」と。

3 「かしこまりました」とヴァッサカーラは王に返事して、華麗な多くの乗り物を装備して、みずからも華麗な乗り物に乗って、それらを連れて王舎城から出て鷲の峰という山に赴いた。乗り物に乗って行ける地点までは乗り物で行き、そこで乗り物から降りて、徒歩で尊師のいますところに近づいた。近づいてから尊師に挨拶の言葉、喜びの言葉を取り交わして、一方に坐した。

さて、マガダ国の大臣・バラモンであるヴァッサカーラは、一方に坐して、尊師に次のように言った。
「きみ、ゴータマよ。マガダ国王アジャータシャトルは、きみゴータマの両足に頭を垂れて礼拝し、あなたが健勝であられ、障りなく、軽快であられるかどうか、気力あられ、ご機嫌が良いかどうかをお尋ねします。マガダ国王アジャータシャトルはヴァッジ族を征服しようとしています。彼はこのように申しました。- 『このヴァッジ族はこのように大いに繁栄し、このように大いに勢力があるけれども、わたしは彼らを征服しよう。ヴァッジ族を根絶しよう。ヴァッジ族を滅ぼそう。ヴァッジ族を無理にでも破滅に陥れよう』- 」と。

4 その時、若き人アーナンダ尊師の背後にいて、尊師を扇いでいた。そこで尊師は若き人アーナンダに尋ねた。
アーナンダよ。①ヴァッジ人は、しばしば会議を開き、会議には多くの人々が参集するということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。①ヴァッジ人は、しばしば会議を開き、会議には多くの人々が参集するということをわたくしは聞きました。」
「それでは、アーナンダよ。ヴァッジ人が、しばしば会議を開き、会議には多くの人々が参集する間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

アーナンダよ。②ヴァッジ人は、協同して集合し、協同して行動し、協同してヴァッジ族として為すべきことを為すということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。②ヴァッジ人は、協同して集合し、協同して行動し、協同してヴァッジ族として為すべきことを為すということをわたくしは聞きました。」
「それでは、アーナンダよ。ヴァッジ人が、協同して集合し、協同して行動し、協同してヴァッジ族として為すべきことを為す間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

アーナンダよ。③ヴァッジ人は、未だ定められていないことを定めず、すでに定められたことを破らず、過ぎ去った昔に定められたヴァッジ人の旧来の法に従って行動しようとするということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。③ヴァッジ人は、未だ定められていないことを定めず、すでに定められたことを破らず、過ぎ去った昔に定められたヴァッジ人の旧来の法に従って行動しようとするということをわたくしは聞きました。」
アーナンダよ。ヴァッジ人が、未来の世にも、未だ定められていないことを定めず、すでに定められたことを破らず、過ぎ去った昔に定められたヴァッジ人の旧来の法に従って行動しようとする間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

アーナンダよ。④ヴァッジ人は、ヴァッジ族のうちの古老を敬い、尊び、崇め、もてなし、そうして彼らの言葉を聴くべきものと思うということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。④ヴァッジ人は、ヴァッジ族のうちの古老を敬い、尊び、崇め、もてなし、そうして彼らの言葉を聴くべきものと思うということをわたくしは聞きました。」
アーナンダよ。ヴァッジ人が、ヴァッジ族のうちの古老を敬い、尊び、崇め、もてなし、そうして彼らの言葉を聴くべきものと思う間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

アーナンダよ。⑤ヴァッジ人は、良家の婦女・童女をば暴力で連れ出し拘束することを為さないということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。⑤ヴァッジ人は、良家の婦女・童女をば暴力で連れ出し拘束することを為さないということをわたくしは聞きました。」
アーナンダよ。ヴァッジ人が、良家の婦女・童女をば暴力で連れ出し拘束することを為さない間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

アーナンダよ。⑥ヴァッジ人は、都市の内外のヴァッジ人のヴァッジ霊域を敬い、尊び、崇め、支持し、そうして以前に与えられ、以前に為されたる法に適った彼らの供物を廃することがないということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。⑥ヴァッジ人は、都市の内外のヴァッジ人のヴァッジ霊域を敬い、尊び、崇め、支持し、そうして以前に与えられ、以前に為されたる法に適った彼らの供物を廃することがないということをわたくしは聞きました。」
アーナンダよ。ヴァッジ人が、都市の内外のヴァッジ人のヴァッジ霊域を敬い、尊び、崇め、支持し、そうして以前に与えられ、以前に為されたる法に適った彼らの供物を廃することがない間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

アーナンダよ。⑦ヴァッジ人は、真人(尊敬されるべき修行者)たちに、正当な保護と防御と支持とを与えてよく備え、未だ来たらざる真人たちが、この領土に到来するであろうことを、またすでに来た真人たちが、領土のうちに安らかに住まうであろうことを願うということをお前は聞いたか?」
「尊い方よ。⑦ヴァッジ人は、真人(尊敬されるべき修行者)たちに、正当な保護と防御と支持とを与えてよく備え、未だ来たらざる真人たちが、この領土に到来するであろうことを、またすでに来た真人たちが、領土のうちに安らかに住まうであろうことを願うということをわたくしは聞きました。」
アーナンダよ。ヴァッジ人が、真人たちに、正当な保護と防御と支持とを与えてよく備え、未だ来たらざる真人たちが、この領土に到来するであろうことを、またすでに来た真人たちが、領土のうちに安らかに住まうであろうことを願う間は、ヴァッジ人には繫栄が期待され、衰亡は無いであろう。

5 そこで尊師マガダ国の大臣であるヴァッサカーラというバラモンに答えた。
「バラモンよ。かつてある時、わたくしがヴァイシャリのサーランダダ霊域に住んでいた。そこで、わたくしはヴァッジ人に衰亡を来たさないための法を説いた。この七つがヴァッジ人の間に存し、またヴァッジ人がこの七つを守っているのが見られる限りは、ヴァッジ人に繫栄が期待せられ、衰亡は無いであろう。」


(ヴァイシャリの関連遺跡)

そのように教えられて、マガダ国の大臣・バラモンであるヴァッサカーラは、尊師に次のように言った。
「きみ、ゴータマよ。衰亡を来たさないための法の一つを具えているだけでも、ヴァッジ人に繫栄が期待せられ、衰亡は無いであろう。いわんや七つ全てを具えているなら、なおさらです。きみ、ゴータマよ。マガダ国王アジャータシャトルは、戦争でヴァッジ族をやっつけるわけにはいきません。外交手段や仲たがいさせようとするはかりごとによるのでない限り。きみ、ゴータマよ。さあ、出かけましょう。我々は忙しくて為すべきことが多いのです。」

ゴータマは答えた。「バラモンよ。ではどうぞご随意にお出かけなさい。」
そこでマガダ国の大臣・バラモンであるヴァッサカーラ尊師の説かれたことを歓び、喜んで、坐を起こって去った。

⇒ 続きは 2、修行僧たちに教える

※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。

【 第1章 】

1、鷲の峰にて
2、修行僧たちに教える
3、旅に出る
4、パータリ村にて

【 第2章 】

5、コーティ村にて
6、ナーディカ村にて
7、商業都市ヴァイシャリ
8、遊女アンバパーリー
9、旅に病む - ベールヴァ村にて

【 第3章 】

10、命を捨てる決意
11、悪魔との対話
12、大地震に関連して
13、死別の運命

【 第4章 】

14、一生の回顧 - バンダ村へ
15、ボーガ市における四大教示
16、鍛冶工チュンダ
17、臨終の地を目指して - プックサとの邂逅

【 第5章 】

18、病い重し
19、アーナンダの号泣
20、大善見王の物語
21、マッラ族への呼びかけ
22、スバッダの帰依

【 第6章 】

23、臨終のことば
24、死を悼む
25、遺体の火葬
26、遺骨の分配と崇拝

なお、底本としてパーリ語経典長部の『大般涅槃経』(マハー・パリニッバーナ・スッタンタ)を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダ最後の旅」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。

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