【仏教用語/人物集 索引】

ブッダ最後の旅【 第6章 】25、遺体の火葬

投稿日:1999年2月15日 更新日:

【 第6章 】

25、遺体の火葬

13 そこで、クシナガラに住んでいるマッラ族は従僕たちに命じた。「それでは、クシナガラの内にある香と花輪と楽器を全て集めよ」と。
そこで、クシナガラに住んでいるマッラ族は、香と花輪と楽器を全て取って、また、五百組の布を取って、尊師の遺体のあるマッラ族のウパヴァッタナの沙羅樹林に赴いた。そこに赴いてから、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊師の遺体をうやまい、重んじ、尊び、供養し、天幕を張り、多くの布の囲いをつけて、このようにしてその日を過ごした。

その時、クシナガラの住民であるマッラ族の人々は、このように思った。「今日は尊師の遺体を火葬するには、あまりにも不適当な時である。明日、我らは尊師の遺体を火葬に付することにしよう」と。

そこで、クシナガラに住んでいるマッラ族の人々は、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊師の遺体をうやまい、重んじ、尊び、供養し、天幕を張り、多くの布の囲いをつけて、第二日をも過ごし、第三日をも過ごし、第四日をも過ごし、第五日をも過ごし、第六日をも過ごした。


(2000年2月 管理人撮影/クシナガラ・お釈迦様の火葬が行われた場所ラーマバール塚・荼毘塚)

14 そこで、第七日に、クシナガラの住民であるマッラ族の人々は、このように思った。
「我らは、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊師の遺体をうやまい、重んじ、尊び、供養して、南に通ずる道路によって都市の南に運び、外に通ずる道路によって都市の外に運び、都市の南において、尊師の遺体を火葬に付そう」と。

その時、マッラ族の八人の首長は、頭を水に浸して洗い、新しい衣を着けて、「我らで尊師の遺体を持ち上げて運んで行こう」と思ったが、持ち上げて運んで行くことが出来なかった。

そこで、クシナガラに住むマッラ族の人々は、尊者アニルッダに次のように言った。
「マッラ族のこれらの八人の首長は、頭を水に浸して洗い、新しい衣を着けて、『我らで尊師の遺体を持ち上げて運んで行こう』と思ったが、持ち上げて運んで行くことが出来なかったのは、いかなる原因、いかなるわけがあるのですか?尊い方よ。」
「ヴァーセッタたちよ。あなた方の意向と、神霊たちの意向とは、異なっているのです。」

15 「では、尊い方よ。神霊たちの意向とはどうなのですか?」
「ヴァーセッタたちよ。あなたたちの意向は、『我らは、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊師の遺体をうやまい、重んじ、尊び、供養して、南に通ずる道路によって都市の南に運び、外に通ずる道路によって都市の外に運び、都市の南において、尊師の遺体を火葬に付そう』というのである。

ところが、ヴァーセッタたちよ。神霊たちの意向は、『我らは、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊師の遺体をうやまい、重んじ、尊び、供養して、北に通ずる道路によって都市の北に運び、北門から都市の中に入れて、中央に通ずる道路によって都市の中央に運び、東門から出て行って都市の東方にあるマクダバンダナ(天冠寺)と名づけるマッラ族の祠堂に進んで、そこで尊師の遺体を火葬に付そう』というのである。」
「尊い方よ。神霊たちの意向の通りに致しましょう。」

16 その時、クシナガラ市は、塵箱の塵芥の埋積に至るまでも、膝のあたりに至るまでも、マンダーラ華が撒き散らされていた。
そこで、神霊たちとクシナガラの住民であるマッラ族とは、天界の、また人間的な、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊師の遺体をうやまい、重んじ、尊び、供養して、北に通ずる道路によって都市の北に運び、北門から都市の中に入れて、中央に通ずる道路によって都市の中央に運び、東門から出て行って都市の東方にあるマクダバンダナ(天冠寺)と名づけるマッラ族の祠堂に進んで、そこで尊師の遺体を安置した。

17 そこで、クシナガラに住むマッラ族の人々は、若き人アーナンダにこう言った。
「尊き方アーナンダさまよ。我らは修行完成者の遺体をどのように処理したら良いのですか?」
「ヴァーセッタたちよ。世界を支配する帝王の遺体を処理するのと同様の仕方で、修行完成者の遺体をしなければなりません。」
アーナンダさまよ。それでは、世界を支配する帝王の遺体は、どのように処理するのですか?」
「ヴァーセッタたちよ。人々は、世界を支配する帝王の遺体を新しい布で包んでから、次に打ってほごされた綿で包む。打ってほごされた綿で包んでから、次に新しい布で包む。このような仕方で、世界を支配する帝王の遺体を五百重に包んで、それから鉄の油槽の中に入れ、他の一つの鉄槽で覆い、あらゆる香料を含む薪を積み重ねて、世界を支配する帝王の遺体を火葬に付する。そうして、四つ辻(四つの道路の合一する地点)に、世界を支配する帝王ストゥーパをつくる。ヴァーセッタたちよ。世界を支配する帝王の遺体に対しては、このように処理するのである。

ヴァーセッタたちよ。世界を支配する帝王の遺体を処理するのと同じ仕方で、修行完成者の遺体を処理しなければならぬ。四つ辻に修行完成者のストゥーパをつくらなければならない。そこに花輪または香料または顔料をささげ、礼拝し、あるいは、心を浄らかにして信ずる人々には、長い間利益を得、また幸福となるであろう。」

18 そこで、クシナガラの住民であるマッラ族の人々は使用人たちに命じた。
「それでは、マッラ族のよく打ってほごされた綿を集めなさい」と。

その時、クシナガラの住民であるマッラ族の人々は尊師の遺体を新しい布で包んだ。新しい布で包んでから、次に打ってほごされた綿で包んだ。打ってほごされた綿で包んでから、新しい布で包んだ。このような仕方で五百重に尊師の遺体を包んで、鉄の油槽の中に入れ、他の一つの鉄槽で覆い、あらゆる香料を含む薪を積み重ねて、尊師の遺体を薪を積み重ねた上にのせた。

19 ちょうどその時に、尊者マハーカッサパはパーヴァーからクシナガラに至る大道を、多くの修行僧の集まり、すなわち五百人の修行僧と共に歩いていた。さて、尊者マハーカッサパは、道から外れて、一本の樹木の根もとに坐した。

その時、あるアージーヴァカ行者がマンダーラ華を手に持って、クシナガラからパーヴァーに至る大道を歩んでいた。尊者マハーカッサパは遠方からアージーヴァカ行者の来るのを見た。そのアージーヴァカ行者を見て言った。
「友よ。あなたは、我らの師を知っておられますか?」と。
「はい。友よ。わたしは知っています。今日から七日前に修行者ゴータマは亡くなりました。ですから、わたしはこのマンダーラ華を手に持っているのです」と。

そこで、情欲をまだ離れていない、かの修行僧らのある者どもは、両腕を突き出して泣き、砕かれた岩のように打ち倒れ、のたうち回り、転がった。「あまりにも早く尊師はお亡くなりになった。あまりにも早く幸いな方はお亡くなりになった。あまりにも早く世の中の眼はお隠れになった」と言って。

しかし、情欲を離れた修行僧どもは、正しくおもい、よく気を付けて堪え忍んでいた。
「つくられたものは無常である。ここでどうして滅びないということが有り得ようか」と言って。

20 その時、年老いて出家したスバッダという修行僧がかの会衆の内に坐っていた。さて、年老いて出家したスバッダはそれらの修行僧にこのように言った。
「やめなさい、友よ。悲しむな。嘆くな。我らはかの偉大な修行僧から上手く解放された。『このことはしても良い。このことはしてはならない』と言って、我々は悩まされていたが、今これからは、我々は何でもやりたいことをしよう。また、やりたくないことをしないようにしよう」と。

そこで、尊者マハーカッサパ修行僧らに告げた。
「やめよ、友よ。悲しむな。嘆くな。友よ。まことに尊師はかつて、あらかじめこのように説かれていたではないか?『全ての愛しき好む者どもとも、生別し、死別し、死後には境界を異にする。どうしてこのことが有り得ようか。かの生じた、存在せる、つくられた、壊滅する性質のものが、壊滅しないような、このような道理は存在しないのである』と。」

21 その時、マッラ族の四人の首長は、頭を洗い、新しい衣を着て、「我らは尊師火葬の薪を積み重ねたものに火をつけよう」と思ったが、火をつけることが出来なかった。
そこで、クシナガラの住民であるマッラ族の人々は尊者アニルッダにこのように言った。
アニルッダさまよ。マッラ族のこれらの四人の首長が、頭を洗い、新しい衣を着て、「我らは尊師火葬の薪を積み重ねたものに火をつけよう」と思ったのですが、火をつけることが出来ないのは、どういう原因、どういうわけがあるのですか?

「ヴァーセッタたちよ。神霊たちの意向があなた方とは異なっているからです。」
「尊い方よ。では、神霊たちの意向というのは、どうなのですか?」

「ヴァーセッタたちよ。神霊たちの意向は、『ここに、尊者マハーカッサパが五百人の修行僧の大勢の集いと共に、パーヴァーからクシナガラに向かって道を歩いておられる。尊者マハーカッサパが頭をつけて尊師のみ足を拝まない間は、尊師火葬の薪は燃えないであろう』というのです。」
「尊い方よ。神霊たちの思し召しのように願いましょう。」

22 次いで、尊者マハーカッサパは、クシナガラの天冠寺であるマッラ族の祠堂、尊師火葬の薪のあるところに赴いた。そこに赴いて、右肩をぬいで衣を一方の左の肩にかけて、合掌して、火葬の薪を積み重ねたものに三度右肩を向けて廻って、足から覆いを取り去って、尊師のみ足に頭をつけて礼拝した。

かの五百人の修行僧も、衣を一方の左の肩にかけて、合掌して、火葬の薪を積み重ねたものに三度右肩を向けて廻って、足から覆いを取り去って、尊師のみ足に頭をつけて礼拝した。

そうして、尊者マハーカッサパと五百人の修行僧とが礼拝し終わった時に、尊師火葬の薪を積み重ねたものはおのずから燃えた。

23 尊師の遺体が火葬に付されると、身体の表面を覆うはだも、皮も、肉も、筋肉も、関節滑液も、その燃え殻の灰が認められないで、遺骨のみが残った。たとえば、バターや油が焼ける時には、ススや灰の残るのが認められないように、それと同じく、尊師の遺体が火葬された時には、身体の表面を覆うはだも、皮も、肉も、筋肉も、関節滑液も、ススや灰が残るのが認められないで、遺骨のみが残った。そうして、それらの五百組の衣の内、最も内部のものと最も外部のものとの二つの衣だけが焼けた。

さて、尊師の遺体の焼けた時に、虚空から水流が現れて降って来て、尊師火葬の薪を消し、地下の水屋からも水流がほとばしって来て、尊師火葬の薪を消した。クシナガラの住民であるマッラ族の人々も、あらゆる香水をもって尊師火葬の薪を消した。

そこで、クシナガラの住民であるマッラ族は尊師の遺骨を七日の間、公会堂の内に置いて、ヤリの垣をつくり、弓の柵を巡らし、舞踊、歌謡、音楽、花輪、香料をもって、尊び、つかえ、うやまい、供養した。

⇒ 続きは 26、遺骨の分配と崇拝 ⇒ 目次(はじめに戻る)

※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。

なお、底本としてパーリ語経典長部の『大般涅槃経』(マハー・パリニッバーナ・スッタンタ)を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダ最後の旅」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。

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