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ブッダ最後の旅【 第1章 】4、パータリ村にて

投稿日:1999年2月15日 更新日:

【 第1章 】

4、パータリ村にて

19 さて、尊師ナーランダに心ゆくまでとどまって、それから若き人アーナンダに告げて言った。

「さあ、アーナンダよ。パータリ村へ行こう」と。
「かしこまりました」と、若き人アーナンダ尊師に答えた。そこで尊師は多くの修行僧たちと共にパータリ村に赴いた。


(2005年に管理人が撮影したナーランダ遺跡)

20 パータリ村の在俗信者たちは、「尊師パータリ村に到着されたそうだ」ということを聞いた。そこでパータリ村の在俗信者たちは、尊師のおられるところへ赴いた。赴いてから、尊師に挨拶して一方に坐した。一方に坐したパータリ村の在俗信者たちは、尊師にこう言った。
「尊い方よ。どうかわれわれの休息所でお休み下さいますように」と。尊師は沈黙によって承諾された。

21 さて、パータリ村の在俗信者たちは、尊師の承諾を知って、坐から起ち、尊師に挨拶し、右肩を向けて巡り、休息所に近づいた。近づいて、敷物を休息所の内にすっかり広げて、席を設け、水瓶を置き、油の燈火を立て終わって、尊師に近づいた。近づいて、尊師に挨拶して、一方に立った。一方に立って、パータリ村の在俗信者たちは尊師にこのように言った。「休息所には敷物がすっかり広げられ、席が設けられ、水瓶は置かれ、油燈が立てられました。尊い方よ、尊師は今が休息のために適当な時だとお考えになるのでしたら、どうぞご随意に・・・」と。

22 そこで尊師は、内衣を着け、上衣と鉢とをたずさえて、修行僧たちと共に休息所に近づいた。近づいて、両足を洗い、休息所に入って、中央の柱の近くに、東に向かって坐った。修行僧たちもまた両足を洗って休息所に入り、西の壁の近くに、東に向かって、尊師を前にして坐った。パータリ村の在俗信者たちもまた、両足を洗って、休息所に入り、東の壁の近くに、西に向かって、尊師を前にして坐した。

23 そこで尊師パータリ村の在俗信者たちに告げて言った。
「資産者たちよ。戒めを犯したために、行いの悪い人にはこの五つの禍いがある。その五つとは何であるか?

ここで、資産者たちよ。行いが悪く、戒めを犯した人は、なおざりの故に、大いに財産を失うに至る。これが戒めを犯したために行いの悪い人に起こる第一の禍いである。
また次に、資産者たちよ。戒めを犯した行いが悪い人には、悪い評判が近づいて来る。これが戒めを犯したために行いの悪い人に起こる第二の禍いである。
また次に、資産者たちよ。戒めを犯した行いが悪い人には、いかなる集会に赴いても、すなわち、王族の集会でも、バラモンたちの集会でも、資産者たちの集会でも、修行者たちの集会でも、どこに行っても、不安で、おじけている。これが戒めを犯したために行いの悪い人に起こる第三の禍いである。
また次に、資産者たちよ。戒めを犯した行いが悪い人には、死ぬ時に精神が錯乱している。これが戒めを犯したために行いの悪い人に起こる第四の禍いである。
次に、資産者たちよ。戒めを犯した行いが悪い人には、身体がやぶれて死んだ後に、悪いところ、苦しいところ、堕ちるところ、地獄に生まれる。これが戒めを犯したために行いの悪い人に起こる第五の禍いである。

24 資産者たちよ。戒めを保っていることによって、品性ある人には、この五つのすぐれた利点がある。その五つとは何であるか?

ここで、資産者たちよ。戒めを保ち、品性ある人は、なおざりにしないことによって、財産が大いに豊かとなる。これが戒めを保っていることによって、品性ある人の受ける第一のすぐれた利点である。
また次に、資産者たちよ。戒めを保ち、品性ある人は、良い評判が起こる。これが戒めを保っていることによって、品性ある人の受ける第二のすぐれた利点である。
また次に、資産者たちよ。戒めを保ち、品性ある人は、いかなる集会に赴いても、すなわち、王族の集会でも、バラモンたちの集会でも、資産者たちの集会でも、修行者たちの集会でも、どこに行っても、落ち着いていていて、おじけることがない。これが戒めを保っていることによって、品性ある人の受ける第三のすぐれた利点である。
また次に、資産者たちよ。戒めを保ち、品性ある人は、死ぬ時に精神錯乱することがない。これが戒めを保っていることによって、品性ある人の受ける第四のすぐれた利点である。
また次に、資産者たちよ。戒めを保ち、品性ある人は、身体がやぶれて死んだ後に、善いところ、天の世界に生まれる。これが戒めを保っていることによって、品性ある人の受ける第五のすぐれた利点である。

25 資産者たちよ。これらの五つが、戒めを保っていることによって、品性のある人の受けるすぐれた利点である。」
そこで尊師は、パータリ村の在俗信者たちに、夜ふけるまで、法に関する講話を説いて、教え、励まし、喜ばせて、別れを告げた。
「資産者たちよ。夜はふけた。ちょうどよい時だと思うなら、どうぞご随意に・・・。」
「かしこまりました」と、パータリ村の在俗信者たちは尊師に答えて、坐から起こって、尊師に敬礼挨拶をして、右肩を向けて廻って、出て行った。
そこで、パータリ村の在俗信者たちが立ち去ると、まもなく尊師は人の住んでいない空き家に入られた。

26 その時、マガダ国の二人の大臣であるスニーダヴァッサカーラとは、ヴァッジ族の侵入を防ぐために、パータリ村に城郭を築いていた。
その時、パータリ村では、千をもって数える多くの神霊たちがそれぞれ敷地を占有していた。優勢な神霊たちが敷地を占有しようとする地方には、優勢な国王または大臣が住居を建築しようとする気になる。中位の神霊たちが敷地を占有しようとする地方には、中位の国王または大臣が住居を建築しようとする気になる。低位の神霊たちが敷地を占有しようとする地方には、劣勢な国王または大臣が住居を建築しようとする気になる。

27 さて、尊師は、清らかな超人的な天眼をもって、千をもって数えるそれらの神霊がパータリ村に敷地を占有しているのを見た。そこで尊師は、朝早く起きて、若き人アーナンダにたずねた。
アーナンダよ。パータリ村に城郭を建設しつつあるのは誰なのだ?」
マガダ国の大臣であるスニーダヴァッサカーラとが、ヴァッジ族の侵入を防ぐために城郭を建設しているのでございます。」

28 「アーナンダよ。あたかも三十三天の神々と相談しているかのごとくに、アーナンダよ、マガダ国の大臣であるスニーダヴァッサカーラとは、ヴァッジ族の侵入を防ぐために、パータリ村に都市の城壁を建設しつつある。アーナンダよ、ここでわたしは、清らかな超人的な天眼をもって、千もの多くの神霊たちがパータリ村に敷地を構えているのを見た。優勢な神霊たちが敷地を占有しようとする地方には、優勢な国王または大臣が住居を建築しようと心を傾ける。中位の神霊たちが敷地を占有しようとする地方には、中位の国王または大臣が住居を建築しようと心を傾ける。低位の神霊たちが敷地を占有しようとする地方には、劣勢な国王または大臣が住居を建築しようと心を傾ける。

アーナンダよ。パータリプッタが立派な場所である限り、商業の中心地である限り、ここは首都であり、物資の集散地であろう。しかし、パータリプッタには三種の災難があるであろう。すなわち火と水と内部からの分裂とによるものである。」

29 そこでマガダ国の大臣であるスニーダヴァッサカーラとは、尊師のいますところに赴いた。赴いてから、尊師と挨拶の言葉を喜び交わした。挨拶の言葉を交わした後で、一方に立った。一方に立ったマガダ国の大臣であるスニーダヴァッサカーラとは尊師に次のように言った。

ゴータマさまは今日わたくしどもの家で修行僧方と食事をなさるのをご承諾ください」と。尊師は沈黙していることによってその申し出を承認した。
そこでマガダ国の大臣であるスニーダヴァッサカーラとは、尊師が承諾されたのを知って、自分の住宅に赴いた。赴いてから、自分の住宅において美味なる食べ物を用意させて、時を告げさせた。
ゴータマさまよ、時刻でございます。食事の準備ができました」と。

30 そこで尊師は早朝に内衣を着け、衣と鉢とをたずさえ、修行僧の一団と共に、マガダ国の大臣スニーダヴァッサカーラとの住処に赴いた。赴いてから、設けられた席に坐った。そこでマガダ国の大臣スニーダヴァッサカーラとは、ブッダを上首とする修行僧の一団を手ずから美味の食べ物をもって満足させ、飽くまでもてなした。そこで尊師が食事を終えて手と鉢を洗った時に、マガダ国の大臣スニーダヴァッサカーラとは、低い座席をとって、一方の端に坐った。

31 マガダ国の大臣スニーダヴァッサカーラとが一方の端に坐した時に、実に尊師は次の詩句を唱えて彼らを喜ばせた。

聖賢の生まれなる人が
住居を構える地方において、
そこで、有徳にして自ら制せる清浄行者たちを供養したならば、
そこにいる神霊たちは
彼らに施与の功徳を振り向けるであろう。
神霊は供養されたならば、また彼を供養し、
崇敬されたならば、また彼を崇敬する。
かくて、彼を愛護すること、
あたかも母が我が子を愛護するようなものである。
神霊の冥々の加護を受けている人は、常に幸運を見る。

そこで尊師マガダ国の大臣スニーダヴァッサカーラを、これらの詩句を唱えて、喜ばせ、坐から立ち上がって出て行った。

32 その時、マガダ国の大臣スニーダヴァッサカーラとは尊師の後について従って行った。「今日、道の人ゴータマが出て行くであろうその門はゴータマの門と名づけられるであろう。また、彼がガンジス河を渡るに際しての渡し場はゴータマの渡しと名づけられるであろう。」と言った。そこで尊師が出て行かれたその門はゴータマの門と名づけられたのである。

33 次いで尊師はガンジス河に赴いた。その時ガンジス河は水が満ちていて、水が渡し場のところまで及んでいて、平らかであるから鳥でさえも水が飲める程であった。ある人々は舟を求めている。ある人々は大きな筏(いかだ)を求めている。またある人々は小さな桴(いかだ)を結んでいる。いずれも彼方の岸辺に行こうと欲しているのである。そこで、あたかも力士が屈した腕を伸ばし、また伸ばした腕を屈するように、まさにそのように僅かの時間の内に、こちらの岸において没して、修行僧の群れと共に向こう岸に立った。

34 次いで尊師は、ある人々が舟を求め、ある人々は筏(いかだ)を求め、ある人々は桴(いかだ)を結んで、あちらとこちらへ往き来しようとしているのを見た。そこで尊師はこのことを知って、その時この感興の言葉を一人つぶやいた。

沼地に触れないで、橋を架けて、広く深い海や湖を渡る人々もある。
木切れやツル草を結び付けて筏(いかだ)をつくって渡る人々もある。
聡明な人々は、すでに渡り終わっている。

⇒ 続きは 5、コーティ村にて ⇒ 目次(はじめに戻る)

※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。

なお、底本としてパーリ語経典長部の『大般涅槃経』(マハー・パリニッバーナ・スッタンタ)を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダ最後の旅」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。

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