わたしが聞いたところによると、あるとき尊き師(ブッダ)はア-ラヴィー国のアーラヴァカという神霊(夜叉)の住居に住みたもうた。その時アーラヴァカ神霊は師のいるところに近づいて、
師に言った、「道の人よ、出てこい」と。「よろしい、友よ」といって師は出てきた。
また神霊は言った、「道の人よ、入れ」と。「よろしい、友よ」と言って、師は入った。
ふたたびアーラヴァカ神霊は師に言った、「道の人よ、出てこい」と。「よろしい、友よ」といって師は出て行った。
また神霊は言った、「道の人よ、入れ」と。「よろしい、友よ」といって師は入った。三たびまたアーラヴァカ神霊は師に言った、「道の人よ、出てこい」と。よろしい、友よ」といって師は出てきた。
また神霊は言った、「道の人よ。入れ」と。「よろしい、友よ」といって師は入った。
四たびまたアーラヴァカ神霊は師に言った、「道の人よ、出てこい」と。
師は答えた、「では、わたしはもう出て行きません、あなたの為すべきことをなさい」と。
神霊が言った、「道の人よ、わたしはあなたに質問しよう。もしもあなたがわたしに解答できないならば、あなたの心を乱し、あなたの心臓を裂き、あなたの両足をとらえてガンジス河の向こうの岸に投げつけよう。」
師は答えた、「友よ。神々・悪魔・梵天を含む世界において、道の人・バラモン・神々・人間を含む生ける者どもの内で、我が心を乱し、我が心臓を裂き、我が両足をとらえてガンジス河の向こうの岸に投げつけ得るような人を、実にわたしは見出さない。友よ。
あなたが聞きたいと欲することを、何でも聞け」と。そこでアーラヴァカ神霊は、師に次の詩をもって呼びかけた。
181 「この世で人間の最高の富は何であるか?いかなる善行が安楽をもたらすのか?実に味の中での美味は何であるか?どのように生きるのが最上の生活であるというのか?」
182 「この世では教えに対する信仰が人間の最上の富である。徳行に篤いことは安楽をもたらす。実に真実が味の中で美味である。知慧によって生きるのが最高の生活であるという」
183 「人はいかにして激流を渡るのであるか?いかにして海を渡るのであるか?いかにして苦しみを越えるのであろうか?いかにして全く清らかとなるのであるか?」
184 「人は教えに対する信仰によって激流を渡り、精を出してつとめ励むことによって海を渡る。勤勉によって苦しみをを超え、知慧によって全く清らかとなる。」
185 「人はいかにして智慧を得るのであろうか?いかにして財を獲るのであるか?いかにして名声を得るのであるか?いかにして交友を結ぶのであるか?どうすれば、この世からかの世に赴いた時に憂いがないのであろうか?」
186 師いわく、「諸々の尊敬さるべき人が安らぎを得る理法を信じ、精励し、聡明であって、教えを聞こうと熱望するならば、ついに智慧を得る。
187 場所、時間などを逸することなく適宜に事をなし、忍耐づよく努力する者は財を得る。
誠実をつくして名声を得、
何ものかを与えて交友を結ぶ。
188 信仰あり在家の生活を営む人に、誠実、真理、堅固、施与というこれら四種の徳があれば、彼は来世に至って憂えることがない。
189 もしもこの世に誠実、自制、施与、耐え忍びよりもさらに勝れたものがあるならば、さあ、それら他のものをも広く道の人、バラモンどもに問え。」
190 神霊いわく、「いまやわたしは、どうして道の人、バラモンどもに広く問う要がありましょうか。わたしは今日来世のためになることを覚り得たのですから。
191 ああ、目ざめた方がア-ラヴィーに住むためにおいでになったのは、実はわたくしのためをはかってのことだったのです。わたしは今日、何に施与すれば大いなる果報が得られるかということを知りました。
192 わたしは、村から村へ、町から町へめぐり歩こう、覚った人を、また真理のすぐれた所以を、礼拝しつつ。」
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※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。
なお、底本としてパーリ語経典の『スッタニパータ』を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダの言葉」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。
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