153 七岳という神霊(夜叉)が言った、「今日は十五日のウポーサタである。みごとな夜が近づいた。さあ、我々は世にもすぐれた名高い師ゴータマ(ブッダ)にお目にかかろう。」
154 雪山に住む者という神霊(夜叉)が言った、「このように立派な人の心は一切の生きとし生けるものに対してよく安立しているのだろうか。望ましいものに対しても、望ましくないものに対しても、彼の意欲はよく制されているのであろうか?」
155 七岳という神霊は答えた、「このように立派なかれ(ブッダ)の心は、一切の生きとし生けるものに対してよく安立している。また望ましいものに対しても、望ましくないものに対しても、彼の意欲はよく制されている。」
156 雪山に住む者という神霊が言った、「彼は与えられないものを取らないであろうか?彼は生きものを殺さないように心がけているであろうか?彼は怠惰から遠ざかっているであろうか?彼は精神の統一をやめないであろうか?」
157 七岳という神霊は答えた、「彼は与えられないものを取らない。彼は生きものを殺さないように心がけている。彼は怠惰から遠ざかっている。目ざめた人(ブッダ)は精神の統一をやめることが出来ない。」
158 雪山に住む者という神霊が言った、「彼は嘘をつかないであろうか?粗暴な言葉を発しないであろうか?中傷の悪口を言わないだろうか?くだらぬおしゃべりを言わないだろうか?」
159 七岳という神霊は答えた、「彼は嘘をつかない。粗暴な言葉を発しない。また中傷の悪口を言わない。くだらぬおしゃべりを言わない。」
160 雪山に住む者という神霊が言った、「彼は欲望の享楽にふけらないだろうか?その心は濁っていないだろうか?迷妄を越えているであろうか?諸々の事柄を明らかに見とおす眼を持っているだろうか?」
161 七岳という神霊は答えた、「彼は欲望の享楽にふけらない。その心は濁っていない。迷妄を越えている。目ざめた人として諸々の事柄を明らかに見とおす眼を持っている。」
162 雪山に住む者という神霊が言った、「彼は明知を具えているだろうか?彼の行いは全く清らかであろうか?彼の煩悩の汚れは消滅しているであろうか?彼はもはや再び世に生まれるということがないであろうか?」
163 七岳という神霊は答えた、「彼は明知を具えている。また彼の行いは清らかである。彼の全ての煩悩の汚れは消滅している。彼はもはや再び世に生まれるということがない。」
163a 雪山に住む者という神霊が言った、「聖者の心は行動と言葉とをよく具現している。明知と行いとを完全に具えている彼をあなたが讃嘆するのは、当然である。」
163b 「聖者の心は行動と言葉とをよく具現している。明知と行いとを完全に具えている彼に、あなたが随喜するのは、当然である。」
164 七岳という神霊が言った、「聖者の心は行動と言葉とをよく具現している。さあ、我らは明知と行いとを完全に具えているゴータマに見えよう。」
165 雪山に住む者という神霊が言った、「かの聖者は羚羊のような脛があり、痩せ細って、聡明であり、小食で、貪ることなく、森の中で静かに瞑想している、来たれ、我らはゴータマ(ブッダ)に見えよう。
166 諸々の欲望をかえりみることなく、あたかも獅子のように象のように独り行く彼に近づいて、我らは尋ねよう、死の縛めから解き放たれる道を。」
167 その二つの神霊が言った、「説き示す人、説き明かす人、あらゆる事柄の究極をきわめ、怨みと恐れを越えた目ざめた人、ゴータマに、我らは問おう。」
168 雪山に住む者という神霊が言った、「何があるとき世界は生起するのですか?何に対して親しみ愛するのですか?世間の人々は何ものに執著しており、世間の人々は何ものに悩まされているのですか?」
169 師は答えた、「雪山に住むものよ。六つのもの(眼、耳、鼻、舌、身、意)があるとき世界が生起し、六つのものに対して親しみ愛し、世界は六つのものに執著しており、世界は六つのものに悩まされている。」
170 「それによって世間が悩まされる執著とは何であるか?お尋ねしますが、それからの出離の道を説いてください。どうしたら苦しみから解き放たれるのでしょうか。」
171 「世間には五種の欲望の対象(色、声、香、味、触)があり、意の対象が第六であると説き示されている。それらに対する貪欲を離れたならば、すなわち苦しみから解き放たれる。
172 世間の出離であるこの道があなたたちに如実に説き示された。このことを、我はあなたたちに説き示す、このようにするならば、苦しみから解き放たれるのである。」
173 「この世において誰が激流を渡るのでしょうか?この世において誰が大海を渡るのでしょうか?支えなくよるべのない深い海に入って、誰が沈まないのでしょうか?」
174 「常に戒を身に保ち、智慧あり、よく心を統一し、内省し、よく気を付けている人こそが、渡り難い激流を渡り得る。
175 愛欲の想いを離れ、一切の結び目(束縛)を越え、歓楽による生存を滅しつくした人、彼は深海の内に沈むことがない。」
176 雪山に住む者という神霊が言った、「深い智慧があり、微妙な意義を見、何ものをも有せず、欲の生存に執著せず、あらゆる事柄について解脱し、天の路を歩みつつあるかの大仙人を見よ。
177 世に名高く、微妙な意義を見、智慧をさずけ、欲望の起る根源に執著せず、一切を知り、よく聡明であり、気高い路を歩みつつあるかの大仙人を見よ。
178 今日我々は美しい太陽を見、美しく晴れた朝に逢い、気もちよく起き上がった。激流をのり越え、煩悩の汚れのなくなった覚った人に我らは見えたからである。
179 これらの千の神霊どもは、神通力あり、誉れたかき者どもであるが、彼らは全てあなたに帰依します。あなたは我らの無上の師であります。
180 我らは、村から村へ、山から山へめぐり歩もう、覚った人をも、真理のすぐれた所以をも礼拝しつつ。」
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※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。
なお、底本としてパーリ語経典の『スッタニパータ』を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダの言葉」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。
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