『正法眼蔵随聞記』8、人法門を問う

投稿日:2023年6月15日 更新日:

一日示して云く、人、法門を問う、あるいは修行の方法を問うことあらば、衲子はすべからく実を以て是れを答うべし。若しくは他の非器を顧み、あるいは初心末入の人意得べからずとて、方便不実を以て答ふべからず。菩薩戒の意は、たとひ小乗の器、小乗の道を問うとも、ただ大乗を以て答うべきなり。如来一期の化儀も尓前方便の権教は実に無益なり。ただ最後実教のみ実に益あるなり。

しかれば、他の得不得を論ぜず、ただ実を以て答うべきなり。もしこの中の人を見ば、実徳を以て是れをうる事を得べし。仮徳を以てうる事を得べし。外相仮徳を以て是れを見るべからず。

昔、孔子に一人有って来帰す。
孔子問うて云く、「汝何を以てか来って我れに帰する。」
彼の俗云く、「君子参内の時是れを見しに、顒々(ぎょうぎょう)として威勢あり。依って是れに帰す。」と。
孔子、弟子をして、乗物・裝束・金銀・財物等を取り出して是れを与えき。
「汝、我れに帰するにあらず。」と。

また云く、宇治の関白殿、ある時鼎殿に到って火を焼く処を見る。
鼎殿見て云く、「何者ぞ、左右なく御所の鼎殿へ入るは。」と云って追出されて後、先の悪き衣服を脱ぎ改めて、顒々として取り裝束して出給う時に、前の鼎殿、はるかに見て恐れ入ってにげぬ。時に殿下、裝束を竿にかけられけり。人、是れを問う。
「我れ人に貴びらるるも我が徳にあらず。ただこの裝束の故なり。」と。
愚かなる者の人を貴ぶ事かくのごとし。経教の文字等を貴ぶ事もまた是のごとし。

古人の云く、「言、天下に満ちて口過なく、行、天下に満ちて怨悪を亡ず。」と。是れ則ち言うべき処を言い、行うべき処を行う故なり。至徳要道の行なり。
世間の言行は私然を以てはからい思う。恐らくは過のみあらん事を。衲子の言行は先証是れ定まれり。私曲を存ずべからず。仏祖行い来れる道なり。
学道の人、各々自ら己が身を顧みるべし。身を顧みると云うは、身心いかように持つべきぞと顧みるべし。然るに衲子は、則ち是れ釈子なり。如来の風儀を慣うべきなり。身口意の威儀、皆千仏行じ来れる作法あり。各々その儀に随うべし。俗なお「服、法に応じ、言、行に随うべし。」と云えり。一切私を用うるべからず。

⇒ 続きを読む

※このページは学問的な正しさを追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるための功夫をしています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではありません。

1、人をはづべくんば明眼の人をはづべし
2、我れは病者なり、非器なり
3、学道の人、衣食を貪ることなかれ
4、学道の人、衣食に労することなかれ
5、古人云く、聞くべし見るべし

6、学道の人は後日を待って行道せんと思う事なかれ
7、海中に龍門と云う処あり
8、人法門を問う
9、当世学道する人
10、唐の太宗の時

11、学道の人、参師聞法の時
12、道者の用心
13、仏々祖々、皆本は凡夫なり
14、俗の帝道の故実を言うに
15、続高僧伝の中に

16、戒行持斎を守護すべければとて
17、人その家に生まれ、その道に入らば
18、広学博覧はかなうべからざることなり
19、如何なるか是れ不昧因果底の道理
20、犯戒と言うは受戒以後の所犯を道うか

21、悪口を以て僧を呵嘖し
22、故鎌倉の右大将
23、昔、魯の仲連
24、たとい我れ道理を以て道うに
25、無常迅速なり、生死事大なり

26、昔、智覚禅師と云し人
27、祖席に禅話を覚り得る故実
28、人は世間の人も衆事を兼ね学して
29、人は思い切って命をも捨て
30、学道の人、衣粮を煩わす事なかれ

31、世間の男女老少
32、世人多く善事を成す時は
33、もし人来って用事を云う中に
34、今の世、出世間の人
35、学道の人、世情を捨つべきについて

36、行者先ず心を調伏しつれば
37、故僧正建仁寺におはせし時
38、唐の太宗の時
39、学道の人は人情をすつべきなり
40、故建仁寺僧正の伝をば

41、故僧正云く、衆各用いる所の衣粮等
42、我れ在宋の時禅院にして古人の語録を見し時
43、真実内徳無うして人に貴びらるべからず
44、学道の人、世間の人に智者もの知りと知られては無用なり
45、今この国の人は

46、学人問うて云く某甲なお学道心に繋けて
47、人多く遁世せざる事は
48、古人云く朝に道を聞かば夕に死すとも可なり
49、学人は必ずしも死ぬべき事を思うべし
50、衲子の行履旧損の衲衣等を

51、父母の報恩等の事
52、人の鈍根と云うは、志の到らざる時の事なり
53、大宋の禅院に麦米等をそろえて
54、近代の僧侶
55、治世の法は上天子より

56、我れ大宋天童禅院に居せし時
57、道の事は心をもて得るか
58、学道の人身心を放下して
59、世間の女房なんどだにも
60、世人を見るに果報もよく

61、学道の人は尤も貧なるべし
62、宋土の海門禅師
63、唐の太宗即位の後
64、衲子の用心、仏祖の行履を守るべし
65、人は必ず陰徳を修すべし

66、学道の人は先ずすべからく貧なるべし
67、学道の人多分云く
68、某甲老母現在せり
69、学道の人自解を執する事なかれ
70、学人第一の用心は先ず我見を離るべし

71、古人云く、霧の中を行けば覚えざるに衣しめる
72、嘉禎二年臘月除夜
73、俗人の云く何人か厚衣を欲せざらん
74、学道の人、悟りを得ざる事は
75、学人初心の時

76、愚癡なる人は
77、三覆して後に云え
78、善悪と云う事定め難し
79、世間の人多分云く
80、俗人の云く城を傾くる事は

81、楊岐山の会禅師
82、ある客僧の云く、近代の遁世の法
83、伝へ聞きき、実否を知らざれども
84、仏法のためには身命をおしむ事なかれ
85、学道の人は吾我のために仏法を学する事なかれ

86、俗人の云く、財はよく身を害す
87、昔、国皇あり
88、僧問うて云く、智者の無道心なると
89、学人、人の施を受けて悦ぶ事なかれ
90、ふるく云く、君子の力は牛に勝れたり

91、真浄の文和尚
92、古人多くは云く光陰虚しく度る事なかれ
93、学道はすべからく吾我を離るべし
94、奘問うて云く、叢林の勤学の行履と云うは
95、泉大道の云く

96、先師全和尚入宋せんとせし時
97、世間の人自ら云く
98、人の心元より善悪なし
99、大恵禅師ある時
100、俗の野諺に云く

101、大慧禅師の云く
102、春秋に云く
103、古人云く知因識果の知事に属して
104、古人の云く百尺の竿頭にさらに一歩を進むべし
105、衣食の事兼ねてより思いあてがふ事なかれ

106、学人各々知るべし
107、学道の最要は坐禅これ第一なり
108、跋語

『正法眼蔵随聞記』

<< 戻る

-仏教を本気で学ぶ
-, , , , ,



Copyright © 1993 - 2023 寺院センター All Rights Reserved.