【仏教用語/人物集 索引】

スッタニパータ【第3 大いなる章】7、セーラ

投稿日:0202年5月28日 更新日:

 わたくしが聞いたところによると、ある時、は大勢の修行僧千二百五十人と共にアングッタラーパという地方を遍歴して、アーバナと名づけるアングッタラーパのある町に入られた。結髪の行者ケーニヤはこういうことを聞いた、「釈迦族の子である道の人ゴータマブッダ)は、釈迦族の家から出家して、修行僧千二百五十人の大きな集いと共に、アングッタラーパを遍歴して、アーバナに達した。そのゴータマさまには、次のような好い名声がおとずれている。すなわち、かのは、真の人・悟りを開いた人・明知と行いを具えた人・幸せな人・世間を知った人・無上の人・人々を調える御者・神々と人間との師・目ざめた人(ブッダ)・尊い師であると言われる。彼は、みずから悟り、体得して、神々・悪魔・梵天を含むこの世界や道の人・バラモン・神々・人間を含む生ける者どもに教えを説く。彼は、初めも善く、中ほども善く、終りも善く、意義も文字もよく具わっている教えを説き、完全円満で清らかな行いを説き明かす、と。ではそのような立派な尊敬さるべき人にまみえるのは幸せ、みごとな善いことだ。」

 そこで結髪の行者ケーニヤのおられるところに赴いた。そうして、に挨拶した。喜ばしい、思い出の挨拶の言葉を交わしたのち、彼は傍らに坐した結髪の行者ケーニヤに対しては法に関する話を説いて、指導し、元気づけ、喜ばされた。結髪の行者ケーニヤは、に法に関する話を説かれ、指導され、元気づけられ、喜ばされて、にこのように言った、「ゴータマさまは修行僧の方々と共に、明日わたくしのささげる食物をお受けください。」

 そのように告げられて、結髪の行者ケーニヤに向かって言われた、「ケーニヤよ。修行僧の集いは大勢で、千二百五十人もいます。またあなたはバラモンがたを信奉しています。」

 結髪の行者ケーニヤは再びに言った、「ゴータマさま。修行僧の方々は大勢で、千二百五十人もいるし、また、わたくしはバラモンがたを信奉していますが、しかしゴータマさまは修行僧の方々と共に、明日わたくしのささげる食物をお受けください。」

 結髪の行者ケーニヤに再び言われた、「ケーニヤよ。修行僧の集いは大勢で、千二百五十人もいます。またあなたはバラモンがたを信奉しています。」

 結髪の行者ケーニヤは三たびに言った、「ゴータマさま。修行僧の集いは大勢で、千二百五十人もいるし、また、わたくしはバラモンがたを信奉していますが、しかしゴータマさまは修行僧の方々と共に、明日わたくしのささげる食物をお受けください。」は沈黙によって承諾された。

 そこで結髪の行者ケーニヤは、が承諾されたのを知って、座から起こって、自分の庵に赴いた。それから、友人・朋輩・近親・親族に告げて言った、「友人・朋輩・近親・親族の皆さん。わたくしの言葉を聞いてください。わたくしは道の人ゴータマ修行僧の方々と共に、明日の食事に招待しました。だから皆さんは、身体を動かして手伝ってください。」

 結髪の行者ケーニヤの友人・朋輩・近親・親族は、「承知しました」と、彼に答えて、ある者は竈の坑を掘り、ある者は薪を割り、ある者は器を洗い、ある者は水瓶を備えつけ、ある者は座席を設けた。また結髪の行者ケーニヤはみずから白い帳を垂れた円い集会場をしつらえた。

 ところでその時、セーラ・バラモンはアーバナに住んでいたが、彼は三ヴェーダの奥義に達し、語彙論・活用論・音韻論・語源論(第四のアタルヴァ・ヴェーダと)第五としての史詩(叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』等)に達し、語句と文法に通じ、順世論や偉人の観相に通達し、三百人の少年にヴェーダの聖句を教えていた。その時、結髪の行者ケーニヤセーラ・バラモンを信奉していた。

 時にセーラ・バラモンは三百人の少年に取り巻かれていたが、長く坐っていたために生じた疲労を除くために膝を伸ばす散歩をし、あちこち歩んでいたが、結髪の行者ケーニヤの庵に近づいた。そこでセーラ・バラモンは、ケーニヤの庵に属する結髪の行者たちが、ある者は竈の坑を掘り、ある者は薪を割り、ある者は器を洗い、ある者は水瓶を備えつけ、ある者は座席を設け、また結髪の行者ケーニヤはみずから円い集会場をしつらえているのを見た。見てから結髪の行者ケーニヤに問うた、「ケーニヤさんは息子の嫁取りがあるのでしょうか?あるいは息女の嫁入りがあるのでしょうか?大きな祭祀が近く行われるのですか?あるいはマガダ王セーニヤ・ビンビサーラを軍隊と共に明日の食事に招待したのですか?」

 「セーラよ。わたくしには息子の嫁取りがあるのでもなく、息女の嫁入りがあるのでもなく、マガダ王セーニヤ・ビンビサーラが軍隊と共に明日の食事に招かれているのでもありません。そうではなく、わたくしは近く大きな祭祀を行うことになっています。釈迦族の子・道の人ゴータマブッダ)は、釈迦族の家から出家して、アングッタラーパ国を遊歩して、大勢の修行僧千二百五十人と共にアーバナに達しました。そのゴータマさまには次のような好い名声がおとずれている。すなわち、かのは、真の人・悟りを開いた人・明知と行いを具えた人・幸せな人・世間を知った人・無上の人・人々を調える御者・神々と人間との師・目ざめた人(ブッダ)・尊い師であると言われる。わたくしはあの方を修行僧らと共に明日の食事に招きました。」

 「ケーニヤさん。あなたは彼を目ざめた人(ブッダ)と呼ぶのか?」
 「セーラさん。わたくしは彼を目ざめた人と呼びます。」
 「ケーニヤさん。あなたは彼を目ざめた人と呼ぶのか?」
 「セーラさん。わたくしは彼を目ざめた人と呼びます。」

 その時、セーラ・バラモンは心に思った。「目ざめた人という語を聞くことは、世間においては難しいのである。ところで我々の聖典の中に偉人の相が三十二伝えられている。それを具えている偉人にはただ二つの途があるのみで、その他の途はありえない。第一に、もしも彼が在家の生活を営むならば、彼は転輪王となり、正義を守る正義の王として四方を征服して、国土人民を安定させ、七宝を具有するに至る。すなわち彼は輪という宝・象という宝・馬という宝・珠という宝・資産者という宝・及び第七に指揮者という宝が現われるのである。また彼には千人以上の子があり、みな勇敢で雄々しく、外敵をうち砕く。彼は、四海の果てるに至るまで、この大地を武力によらず刀剣を用いずに、正義によって征服して支配する。第二に、しかしながら、もしも彼が家から出て出家者となるならば、真の人・覚りを開いた人となり、世間における諸々の煩悩の覆いをとり除く」と。

 「ケーニヤさん。では真の人・覚りを開いた人であられるゴータマさまは、いまどこにおられるのですか?」

 彼がこのように言った時に、結髪の行者ケーニヤは、右腕を差し伸ばして、セーラ・バラモンに告げて言った、「セーラさん。この方角に当って一帯の青い林があります。そこにゴータマさまはおられるのです。」

 そこでセーラ・バラモンは三百人の少年と共にのおられるところに赴いた。その時、セーラ・バラモンはそれらの少年たちに告げて言った、「きみたちは急がずに小股に歩いて、響きを立てないで来なさい。諸々の尊き師は獅子のように独り歩む者であり、近づき難いからです。そうしてわたしが道の人ゴータマと話している時に、きみたちは途中で言葉を挿んではならない。きみたちはわたしの話が終るのを待て。」

 さてセーラ・バラモン尊き師のおられるところに赴いた。そこで、に挨拶した。喜ばしい、思い出の挨拶の言葉を交わしたのち、彼は傍らに坐した。それから、セーラ・バラモンは師の身に三十二の偉人の相があるかどうかを探した。セーラ・バラモンは、の身体に、ただ二つの相を除いて、三十二の偉人の相が殆んど具わっているのを見た。ただ二つの偉人の相に関しては、それらがはたしてにあるかどうかを彼は疑い惑い、目ざめた人(ブッダ)であるということを信用せず、信仰しなかった。その二つとは体の膜の中におさめられた隠所と広長舌相とである。

 その時、は思った、「このセーラ・バラモンは我が身に三十二の偉人の相を殆んど見つけているが、ただ二つの相を見ていない。ただ体の膜の中におさめられた隠所と広長舌相という二つの偉人の相に関しては、それらがはたしてわたくしの身にあるかどうかを彼は疑い惑い、目ざめた人(ブッダ)であるということを信用せず、信仰してしない」と。

 そこでは、セーラ・バラモンの体の膜の中におさめられた隠所を見得るような神通を示現した。次には舌を出し、舌で両耳孔を上下になめまわし、両耳孔を上下になめまわし、前の額を一面に舌で撫でた。

 そこでセーラ・バラモンは思った、「道の人ゴータマは三十二の偉人の相を完全に身に具えていて、不完全ではない。しかしわたしは、『彼がブッダであるか否か』ということをまだ知らない。ただわたしは、年老い齢高く師またはその師であるバラモンたちが『諸々の尊敬さるべき人、完全な覚りを開いた人は、自分が讃嘆される時には、自身を示現する』と語るのを聞いたことがある。さあ、わたしは、適当な詩を以て、道の人ゴータマブッダ)をその面前において讃嘆しましょう」と。そこでセーラ・バラモンは相応しい詩を以て尊き師をその面前において讃嘆した。

548 「先生!あなたは身体が完全であり、よく輝き、生まれも良く、見た目も美しい。黄金の色があり、歯は極めて白い。あなたは精力ある人です。

549 実に、生まれの良い人の具えるすがた・かたちは、全て、偉人の相として、あなたの身体の内にあります。

550 あなたは、眼が清らかに、容貌も美しく、身体は大きく、真っ直ぐで、光輝あり、道の人の群の中にあって、太陽のように輝いています。

551 あなたは見るも美しい修行者(比丘)で、その膚は黄金のようです。このように容色が優れているのに、どうして道の人となる必要がありましょうか。

552 あなたは転輪王(世界を支配する帝王)となって、戦車兵の主となり、四方を征服し、ジャンブ州(全インド)の支配者となるべきです。

553 クシャトリヤ(王侯たち)や地方の王どもは、あなたに忠誠を誓うでしょう。ゴータマブッダ)よ。王の中の王として人類の帝王として、統治をなさってください。」

554 ブッダ)は答えた、「セーラよ。わたくしは王ではありますが、無上の真理の王です。真理によって輪をまわすのです。誰も反転しえない輪を。」

555 セーラ・バラモンが言った、「あなたは完全に悟った者であると、みずから称しておられます。ゴータマブッダ)よ。あなたは『我は無上の真理の王であり、法によって輪をまわす』と説いておられます。

556 では、誰が、あなたの将軍なのですか?の相続者である弟子は、誰ですか?あなたがまわされたこの真理の輪を、誰があなたに続いてまわすのですか?」

557 が答えた、「セーラよ。わたしがまわした輪、すなわち無上の真理の輪(法輪)を、サーリプッタがまわす。彼は全き人に続いて出現した人です。

558 わたしは、知らねばならぬことをすでに知り、修むべきことをすでに修め、断つべきことをすでに断ってしまった。それ故に、わたしは悟った人(ブッダ)である。バラモンよ。

559 わたしに対する疑惑をなくせよ。バラモンよ。わたしを信ぜよ。諸々の悟りを開いた人に、しばしば見えることは、いとも難しい。

560 彼は悟りを開いた人々が、しばしば世に出現することは、そなたらにとって、いとも得難いことであるが、わたしは、その悟った人なのである。バラモンよ、わたしは煩悩の矢を抜き去る最上の人である。

561 わたしは神聖な者であり、無比であり、悪魔の軍勢を撃破し、あらゆる敵を降服させて、なにものをも恐れることなしに喜ぶ。」

562 セーラ・バラモンは弟子どもに告げて言った、「きみたちよ。眼ある人の語るところを聞け。彼は煩悩の矢を断った人であり、偉大な健き人である。あたかも、獅子が林の中で吼えるようなものである。

563 神聖な者、無比なる者、悪魔の軍勢を撃破する者を見ては、誰が信ずる心をいだかないであろうか。たとい、色の黒い種族の生まれの者でも、信ずるであろう。

564 従おうと欲する者は、我に従え。また従いたくない者は、去れ。わたしもすぐれた智慧ある人のもとで出家しましょう。」

565 セーラ・バラモンの弟子どもが言った、「もしもこの完全に悟った人の教えを、 先生が喜ばれるのでしたら、わたくしたちもまた、すぐれた智慧ある人のもとで、出家しましょう。」

566 セーラ・バラモンは言った、「これら三百人のバラモンたちは、合掌してお願いしています。『先生!わたくしたちは、あなたのみもとで、清らかな行いを実践しましょう。』

567 ブッダ)が答えた、「セーラよ。清らかな行いが、みごとに説かれている。それは目のあたり、即時に果報をもたらす。おこたりなく道を学ぶ人が、出家して清らかな行いを修めるのは空しくはない」

 セーラ・バラモンは仲間と共にのもとで出家して、完全な戒律を受けた。

 時に、結髪の行者ケーニヤは、その夜が過ぎてから、自分の庵で味のよい硬軟の食物を用意させて、に時の来たことを告げて、「ゴータマブッダ) さま。時間です。食事の用意ができました」と言った。そこでは午前中に内衣を着け、重衣をきて、鉢を手にとって、結髪の行者ケーニヤの庵に赴いた。そうして、修行僧の集いと共に、あらかじめ設けられた席についた。それから結髪の行者ケーニヤは、ブッダを初め修行僧らに、手ずから、味のよい硬軟の食物を給仕して、満足させ、あくまでもてなした。そこで結髪の行者ケーニヤは、が食事を終り鉢から手を離した時に、みずから一つの低い座を占めて、傍らに坐した。そうして結髪の行者ケーニヤに、は次の詩を以て、喜びの意を表した。

568 火への供養は祭祀の内で最上のものである。サーヴィトリー讃歌ヴェーダの詩句の内で最上のものである。王は人間の内では最上の者である。大洋は、諸河川の内で最上のものである。

569 月は、諸々の星の内で最上のものである。太陽は、輝くものの内で最上のものである。修行僧の集いは、功徳を望んで供養を行う人々にとって最上のものである。

 はこれらの詩を唱えて結髪の行者ケーニヤに喜びの意を示して、座から起こって、去って行かれた。

 そこでセーラさんは、自分の仲間と共に、独りで他人から遠ざかり、怠ることなく、精励し専心していたが、まもなく、(諸々の立派な人々がそれらを得るために正しく家を出て家なきに赴く目的であるところの)無上の清らかな行いの究極を現世においてみずから悟り、体得し、具現していた。「迷いの生存の内に生まれることは消滅した。清らかな行いはすでに完成した。為すべきことをなしおえた。もはや再びこのような生存を受けることはない」と悟った、そしてセーラさんとその仲間とは、聖者の一人となった。

 そののちセーラさんはその仲間と共にのおられるところに赴いた。そうして、衣を一方の左の肩にかけて右肩を洗わして、に向かって合掌し、次の詩を以てに呼びかけた。

570 「先生!眼ある方よ。今から八日以前に、我らはあなたに帰依しましたが、七日の間に、我らはあなたの教えの中で身を整えました。

571 あなたは覚った方(ブッダ)です。あなたは師です。あなたは悪魔を征服した聖者です。あなたは煩悩の潜在的な可能力を断って、みずから渡りおわり、またこの人々を渡して下さいます。

572 あなたは生存の素因を超越し、諸々の煩悩の汚れを滅ぼしておられます。あなたは執著することのない獅子のようです。恐れおののきを捨てておられます。

573 これら三百人の修行僧は、合掌して立っています。健き人よ、足をお伸ばしください。諸々の竜(行者)をしてを拝ませましょう。」

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※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。

なお、底本としてパーリ語経典の『スッタニパータ』を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダの言葉」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。

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