【仏教用語/人物集 索引】

『伝光録』第五十二祖。永平奘和尚。

投稿日:2004年1月12日 更新日:

【本則】

第五十二祖。永平奘和尚。参元和尚。一日請益次。聞一毫穿衆穴因縁。即省悟。晩間礼拝。問曰。一毫不問。如何是衆穴。元微笑曰。穿了也。師礼拝。

【機縁】

師諱懷奘。俗姓藤氏。所謂。九條大相国四代孫。秀通孫也。投叡山円能法印之房。十八歳落髮。然しより倶舍成実の二教を学し。後に摩訶止観を学す。ここに名利の学業はすこぶる益なきことをしりて。ひそかに菩提心をおこす。然れどもしばらく師範の命にしたがひて。学業をもて向上のつとめとす。然るにある時。母儀のところにゆく。母すなはち命じて曰。われ汝ぢをして出家せしむるこころざし。上綱の位を補して。公上のまじはりをなせとおもはず。ただ名利の学業をなさず。黒衣の非人にして。背後に笠をかけ。往来ただかちよりゆけとおもふのみなり。時に師ききて承諾し。忽に衣をかゑてふたたび山にのぼらず。浄土の教門を学し。小坂の奧義をきき。後ち多武の峯仏地上人。遠く仏照禅師の祖風をうけて。見性の義を談ず。師ゆきてとふらふ。精窮群に超ゆ。有時首楞厳経の談あり。頻伽瓶喩のところにいたりて。空をいるるに空増せず。空をとるに空減ぜずと云にいたりて。深く契処あり。仏地上人曰く。いかんが無始曠劫よりこのかた。罪根惑障悉く消し。苦みみな解脱しおはると。時に会の学人三十余輩。みなもて奇異のおもひをなし。皆ことごとく敬慕す。然るに永平元和尚。安貞元丁亥歳。はじめて建仁寺にかへりて修練す。時に大宋より正法を伝て。ひそかに弘通せんといふきこへあり。師きひておもはく。われすでに参止・参観の宗にくらからず。浄土一門の要行に達すといへども。なをすでに多武の峯に参ず。すこぶる見性成仏の旨に達す。何事の伝へ来ることかあらんといひて。試におもむきてすなはち元和尚に参ず。はじめて対談せし時。両三日はただ師の得処におなじし。見性霊知の事を談ず。時に師歓喜して違背せず。わが得所実なりとおもふて。いよいよ敬歎をくはふ。やや日数をふるに。元和尚すこぶる異解をあらはす。時に師おどろきて。ほこさきをあぐるに。師の外に義あり。ことごとくあひ似ず。ゆへに更に発心して。伏承せんとせしに。元和尚すなはち曰。われ宗風を伝持して。はじめて扶桑国中に弘通せんとす。当寺に居住すべしといへども。別に所地をゑらんで止宿せんとおもふ。もしところをゑて草庵をむすばば。即ちたづねていたるべし。ここにあひしたがはんこと不可なり。師命にしたがひて時をまつ。然るに元和尚深草の極楽寺のかたわらに。はじめて草庵をむすびて一人居す。一人のとふらふなくして両歳をへしに。師すなはちたづねいたる。時は文暦元年なり。元和尚歓喜して。すなはち入室をゆるし。昼夜祖道を談ず。やや三年をすぐるに。今の因縁を請益に挙せらる。いはゆるこの因縁は。一念万年。一毫穿衆穴。登科任汝登科。拔萃任汝拔萃。これをききて師即省悟す。聴許ありしより後ちあひしたごふに。一日も師をはなれず。影の形ちにしたがふが如くして。二十年をおくる。たとひ諸職を補すといへども。必ず侍者をかぬ。職務の後はまた侍者司に居す。ゆへに予瑩山祖受戒於孤雲祖。奉侍年久也二代和尚の尋常の垂示をききしに曰く。仏樹和尚の門人数輩ありしかども。元師ひとり参徹す。元和尚の門人またおおかりしかども。われひとり函丈に独歩す。ゆへにのきかざるところをきけることはありといへども。他のきけるところをきかざることなし。卒に宗風を相承してより後。尋常に元和尚師をもて重くせらる。師をして永平の一切仏事をおこなはしむ。師その故をとへば。和尚示曰。わが命ひさしかるべからず。汝ぢわれよりひさしくして。決定わが道を弘通すべし。ゆへにわれ汝を法の為に重くす。室中の礼あだかも師匠のごとし。四節ごとに太平を奉まつらるること。如是義をおもくし。礼をあつくす。師資道合し。心眼ひかりまじはり。水に水を入。空に空を合するに似たり。一毫も違背なし。ただ師ひとり元和尚の心をしる。他のしるところにあらず。いはゆる深草に修練の時。すなはち出郷の日限をさだめらるる牓に曰。一月両度。一出三日也。然るに師の悲母最後の病中に。師ゆきてみることすでに制限をおかさず。病すでに急にして。最後の対面をのぞむ。使ひすでにかさなるゆへに。一衆悉くゆくべしといふ。師すでに心中におもひきはむといへども。また一衆の心をしらんとおもふて。衆をあつめて報じて曰く。母儀最後の相見をねがふ。制をやぶりてゆくべしやいなや。時に五十余人みないふ。禁制かくのごとくなりといへども。今生悲母ふたたびあふべきにあらず。懇請してゆくべし。衆心悉くそむくべからず。和尚なんぞゆるさざらん。事すでに重し。小事に準すべからず。衆人の儀みな一同なり。この事上方にきこゆ。和尚ひそかに奘公の心。定ていづべからず。衆儀に同せじと。はたして衆儀をはりて後。師衆に報して曰。仏祖の軌範。衆儀よりも重し。まさしくこれ古仏の礼法なり。悲母の人情にしたがひ。古仏の垂範にそむかん。すこぶる不孝のとがなんぞまぬかれんや。ゆへいかんとなれば。今まさに仏の制法をやぶらん。これ母最後の大罪なるべし。夫れ出家人としては。親をして道にいらしむべきに。今一旦人情にしたがひ。永劫沈淪をうけしめんやといひて。卒に衆儀にしたがはず。ゆへに衆人舌をまく。はたして和尚の所説にたがはず。諸人讃歎して。実にこれ人おこしがたき志なりと。かくのごとく十二時中。師命にそむかざるこころざし。師父もかがみる。実に師資の心通徹す。しかのみならず。二十年中師命によりて療病せん時。師顏に向はざること。首尾十日なり。南嶽懷譲六祖に奉侍せしこと。未徹以前八年。已徹して以後八年。前後十五秋の星霜をおくる。その外三十年四十年。師をはなれざる。おほしといへども。師のごとくなる古今未見聞なり。しかのみならず。永平の法席をつぎて十五年のあひだ。方丈のかたはらに先師の影を安じて。夜間に珍重し。曉天に和南して。一日もおこたらず。世世生生奉侍を期し。卒に釈尊阿難のごとくならんとねがひき。なほ今生の幻身も。あひはなれざらん為に。遺骨をして先師の塔の侍者の位にうづましむ。別に塔をたてず。塔はもて尊を表するをおそれてなり。同寺において。わが為に別に仏事を修せんことをおそれて。先師忌八箇日の仏事の。一日の回向にあづからんとねがひ。果して同月二十四日に終焉ありて。平生の願楽のごとく。開山忌一日をしむ。志氣の切なることあらはる。しかのみならず。義を重くし。法を守ること一毫髮も開山の会裏にたがはず。ゆへに開山一会の賢愚老少悉く一帰す。今諸方に永平門下と称する。みなこれ師の門葉なり。かくのごとく法火熾然として。とふくあらはるるが故に。越州大野郡にある人夢みらく。北山にあたりて大火たかくもゆ。人ありてとふて曰く。これいかなる火なれば。かくのごとくもゆるぞと。答曰。仏法上人の法火なりと。夢さめて人にたづぬるに。仏法上人といひし人。うざかのきたの山に住して。世をさりて年はるかなり。その門弟いま彼の山に住すとききて。不思議のおもひをなし。わざと夢をしるして恣参しき。実に開山の法道を伝持して。永平に弘通する事。開山の来記にたがはざるゆへに。兒孫いまにをよびて。宗風未断絶。これによりて。当寺老和尚价公。まのあたりかの嫡子として。法幢をこのところにたて。宗風を当林にあぐ。因て雲兄水弟。飢寒をしのび。古風を学て。万難をかへりみず。昼夜参徹す。これ然しながら師の徳風のこり。霊骨あたたかなるゆへなり。

【拈提】

夫れ法ををもんずること。師の操行のごとく。徳をひろむること。師の真風のごとくならば。扶桑国中に宗風いたらざるところなく。天下遍ねく永平の宗風になびかん。汝等今日の心術。古人のごとくならば。未来の弘通。大宋のごとくならん。そもそも一毫穿衆穴のこころは。師已に一毫不問。如何是衆穴と問。繊毫の立すべきなく。一法のきざすべきなし。ゆへに古人曰。実際理地に不受一塵。一亘の清虚に毫髮のきざし来るなし。かくのごとく会得せし時。元老すなはち許可するに。穿了也といふ。実に百千の妙義。無量の法門。一毫頭上に向て穿却しをはりぬ。終に微塵の外より来るなし。ゆへに十方界畔なく。三世へだてなし。玲玲瓏瓏として。明明了了たり。この田地千日ならび照すとも。なほ其の明におよばず。千眼回しみれども。そのきはをきはむべからず。然れども人人ことごとくうたがはず。覚悟了了たり。ゆへに寂滅の法にあらず。差別の相にあらず。動なく静なく。聞なく見なし。子細に精到し。恁麼に覚了すや。もしこのところに承当せずんば。たとひ千万年の功行あり。恒河沙の諸仏にまみゆとも。ただこれ有為の功行のみなり。一毫もいまた祖風を弁へず。故に三界苦輪まぬかるべからず。四生の流転断ずることなからん。汝等ら諸人。かたじけなく仏の形儀をかたどり。仏の受用をもちいる。もしいまだ仏心に承当の分なくは。十二時自己を欺誑するのみにあらず。諸仏を毀破す。ゆへに無明地をやぶることなく。業識蘊に流浪す。たとひしばらく善根力によりて。人天の果報を感じ。自ら有為の快楽にほこるとも。車輪しはらくしめれるところにをし。かはけるところにをすがごとし。をはりなくはじめなく。ただ流転業報の衆生ならん。然ればたとひ三乗十二分教を通利すとも。八万四千の法門を開演すとも。畢竟これねづみをうかがふねこのごとし。かたちしづまれるに似たれども。心はもとめやむことなし。たとひ修行綿密なりとも。十二時中心地いまだをだやかならず。これによりて疑滯いまだはれず。きつねのはやく走るといへども。かへりみるによりて。すすむことおそきがごとし。野狐精の変怪。未断弄精魂の活計なり。然れば多聞をこのむことなかれ。広学をいとなむことなかれ。ただ暫時なりといへども。刹那なりといへども。こころざしを発すること。大火聚の繊塵をととめざるがごとく。太虚空の一針をもかけざるがごとくに似て。たとひ思量すといへども。必ず思不到のところにいたらん。たとひ不思量なりとも。必ず空不得のところにいたらん。もしよくかくのごとく志し実ありて。志しすでにかたからん時。人人悉く通徹して。三世仏の所証と絲毫もへだつべからず。ゆへに永平開山曰。人道をもとむること。世にたかきいろにあはんとおもひ。こはきかたきをうたんとおもひ。堅城をやふらんとおもふがごとくなるべし。志しすでにふかきによりて。このいろに終にあはざることなし。彼の城やぶらざることなし。この心をもて道にひるがへさん時。千人は千人ながら。万人は万人ながら。みな是悉く得道すべし。然れば諸人者。道は無相大乗の法。かならず機をゑらぶ。初機後学のいたるべきにあらずと。おもふことなかれ。このところにすべて利鈍なく。すべて所務なし。一度憤発して深く契処あるべし。且道。如何是這箇道理。さきにすでに衆に呈す。虚空従来不容針。廓落無依有誰論せん。この田地にいたる時。一毫の名を立せず。なにいはんや。衆穴あることあらんや。然れども万法泯ずといへども。泯ぜざるものあり。一切つくすといへども。つきゑざるものあり。得得としておのづから杲然たり。空空としてもとより霊明なり。故に浄裸裸といひ。赤洒洒といひ。惺惺歴歴地といひ。明明皎皎地といふ。繊毫の疑慮なく。毫髮の浮塵なし。百千万の日月よりもあきらかなり。ただこれ白といふべからず。赤と云べからず。あだかも夢のさめたる時のごとし。己に活活たるのみなり。これをよんて活活といふ。惺惺といふは。すなはちさめさめたるのみなり。明明といふは。またあきあきとなるのみなり。内外なしといふべきにあらず。古にわたるともいふべからず。今にわたるともいふべからず。ゆへに莫謂。一毫穿衆穴。なんの徹了かあらん。よんで一毫とすれば。すでにこれ二代和尚の所得底。更にいかんがこれ一毫の体。要聞麼。

【頒古】

虚空従来不容針。廓落無依有誰論。莫謂一毫穿衆穴。赤洒洒地絶瘢痕。

(以上、『伝光録』)

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