【仏教用語/人物集 索引】

『正法眼蔵随聞記』60、世人を見るに果報もよく

投稿日:1235年6月11日 更新日:

夜話に云く、世人を見るに果報もよく、家をも起こす人は、皆正直に、人の為にもよきなり。故に家をも持ち、子孫までも絶えざるなり。心に曲節あり人の為にあしき人は、たとひ一旦は果報もよく、家をたもてるようなれども、始終あしきなり。たとひまた一期はよくてすぐせども、子孫未だ必ずしも吉ならざるなり。

また人のために善き事を為して、彼の主に善しと思われ悦びられんと思うてするは、悪しきに比すれば勝れたれども、なお是れは自身を思うて、人のために実に善きにあらざるなり。主には知られずとも、人のためにうしろやすく、乃至未来の事、誰がためと思わざれども、人のためによからん料の事を作し置きなんどするを、真に人のため善きとは云うなり。

況んや衲僧は、是れには超えたる心を持つべきなり。衆生を思う事親疎をわかたず、平等に済度の心を存じ、世、出世間の利益、全て自利を憶わず、人に知られず主に悦ばれず、ただ人の為善き事を心の中になして、我れは是のごとくの心もったると人に知られざるなり。

この故実は、先ずすべからく世を棄て身を捨つべきなり。我が身をだにも真実に捨離しつれば、人に善く思われんと云う心は無きなり。然れどもまた、人は何にも思わば思えとて、悪しき事を行じ、放逸ならんはまた仏意に背く。ただよき事を行じ人の為にやすき事をなして代りを思うに我がよき名を留めんと思わずして、真実無所得にて、先生の事をなす、即ち吾我を離るる第一の用心なり。

この心を存ぜんとおもわば先ずすべからく無常を念うべし。一期は夢の如し。光陰移り易し。露の命は待ちがたうして、明るを知らぬならいなれば、ただ暫くも存じたるほど、聊かの事につけても人の為によく、仏意に順わんと思うべきなり。

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『正法眼蔵随聞記』

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