【仏教用語/人物集 索引】

「正法眼蔵」夢中説夢(むちゅうせつむ)

投稿日:1242年9月21日 更新日:

諸仏諸祖出興之道、それ朕兆已前なるゆゑに旧窠の所論にあらず。これによりて仏祖辺、仏向上等の功徳あり。時節にかかはれざるがゆゑに寿者命者、なほ長遠にあらず、頓息にあらず。はるかに凡界の測度にあらざるべし。法輪転また朕兆已前の規矩なり。このゆゑに、大功不賞、千古榜様なり。これを夢中説夢す。証中見証なるがゆゑに夢中説夢なり。

この夢中説夢処、これ仏祖国なり、仏祖会なり。仏国仏会、祖道祖席は、証上而証、夢中説夢なり。この道取説取にあひながら仏会にあらずとすべからず、これ仏転法輪なり。この法輪、十方八面なるがゆゑに、大海須弥、国土説法現成せり。これすなはち諸夢已前の夢中説夢なり。

徧界の弥露は夢なり、この夢すなはち明々なる百草なり。擬著せんとする正当なり、粉紜なる正当なり。このとき夢草中草説草等なり。これを参学するに、根茎枝葉、花果光色、ともに大夢なり。夢然なりとあやまるべからず。

しかあれば、仏道をならはざらんと擬する人は、この夢中説夢にあひながら、いたづらにあるまじき夢草の、あるにもあらぬをあらしむるをいふならんとおもひ、まどひにまどひをかさぬるがごとくにあらんとおもへり。しかにはあらず。たとひ迷中又迷といふとも、まどひのうへのまどひと道取せられゆく道取の神通霄の路、まさに功夫参学すべし。

夢中説夢は諸仏なり、諸仏は風雨水火なり。この名号を受持し、かの名号を受持す。夢中説夢は古仏なり。乗此宝乗、直至道場なり。直至道場は乗此宝乗中なり。夢曲夢直、把定放行逞風流なり。

正当恁麼の法輪、あるいは大法輪界を転ずること、無量無辺なり。あるいは一微塵にも転ず、塵中に消息不休なり。この道理、いづれの恁麼事を転法するにも、怨家笑点頭なり。いづれの処所も恁麼事を転法するゆゑに転風流なり。このゆゑに、尽地みな驀地の無端なる法輪なり。徧界みな不昧の因果なり、諸仏の無上なり。

しるべし、諸仏化道および説法蘊、ともに無端に建化し、無端に住位せり。去来の端をもとむることなかれ。尽従這裡去なり、尽従這裡来なり。このゆゑに、葛藤をうゑて葛藤をまつふ、無上菩提の性相なり。菩提の無端なるがごとく、衆生無端なり、無上なり。籠籮無端なりといへども、解脱無端なり。公案見成は放儞三十棒、これ見成の夢中説夢なり。

しかあればすなはち、無根樹、不陰陽地、喚不響谷、すなはち見成の夢中説夢なり。これ人天の境界にあらず、凡夫の測度にあらず。夢の菩提なる、たれか疑著せん。疑著の所管にあらざるがゆゑに、認著するたれかあらん、認著の所転にあらざるがゆゑに。

この無上菩提、これ無上菩提なるがゆゑに夢これを夢といふ。中夢あり、夢説あり、説夢あり、夢中あるなり。夢中にあらざれば説夢なし、説夢にあらざれば夢中なし、説夢にあらざれば諸仏なし、夢中にあらざれば諸仏出世し転妙法輪することなし。

その法輪は、唯仏与仏なり、夢中説夢なり。ただまさに夢中説夢に無上菩提衆の諸仏諸祖あるのみなり。さらに法身向上事、すなはち夢中説夢なり。ここに唯仏与仏の奉覲あり。頭目髓脳、身肉手足を愛惜することあたはず、愛惜せられざるがゆゑに、売金須是買金人なるを、玄之玄といひ、妙之妙といひ、証之証といひ、頭上安頭ともいふなり。これすなはち仏祖の行履なり。これを参学するに、頭をいふには人の頂上とおもふのみなり。さらに毘盧の頂上とおもはず、いはんや明々百草頭とおもはんや、頭聻を知らず。

むかしより頭上安頭の一句、つたはれきたれり。愚人これをききて剩法をいましむる言語とおもふ。あるべからずといはんとては、いかでか頭上安頭することあらむといふを、よのつねのならひとせり。まことにそれあやまらざるか。説と現成する、凡聖ともにもちゐるに相違あらず。

このゆゑに、凡聖ともに夢中説夢なる、きのふにても生ずべし、今日にても長ずべし。しるべし、きのふの夢中説夢は夢中説夢を夢中説夢と認じきたる。如今の夢中説夢は夢中説夢を夢中説夢と参ずる、すなはちこれ値仏の慶快なり。かなしむべし、仏祖明々百草の夢あきらかなる事、百千の日月よりもあきらかなりといへども、生盲のみざること。あはれむべし、いはゆる頭上安頭といふその頭は、すなはち百草頭なり、千種頭なり、万般頭なり、通身頭なり。全界不曽蔵頭なり、尽十方界頭なり。一句合頭なり、百尺竿頭なり。安も上も頭々なると参ずべし、究すべし。

しかあればすなはち、一切諸仏及諸仏阿耨多羅三藐三菩提、皆従此経出も、頭上安頭しきたれる夢中説夢なり。此経すなはち夢中説夢するに、阿耨菩提の諸仏を出興せしむ。菩提の諸仏、さらに此経をとく、さだまれる夢中説夢なり。夢因くらからざれば夢果不昧なり。ただまさに一槌千当万当なり、千槌万槌は一当半当なり。

かくのごとくなるによりて、恁麼事なる夢中説夢あり、恁麼人なる夢中説夢あり、不恁麼事なる夢中説夢あり、不恁麼人なる夢中説夢ありとしるべし。しられきたる道理顕赫なり。いはゆるひめもすの夢中説夢、すなはち夢中説夢なり。

このゆゑに古仏いはく、我今為汝夢中説夢、三世諸仏也夢中説夢、六代祖師也夢中説夢(我れ今汝が為に夢中説夢す、三世諸仏も也た夢中説夢す、六代祖師も也た夢中説夢す)。

この道、あきらめ学すべし。いはゆる拈花瞬目すなはち夢中説夢なり、礼拝得髓すなはち夢中説夢なり。

おほよそ道得一句、不会不識、夢中説夢なり。千手千眼、用許多作麼なるがゆゑに、見色見声、聞色聞声の功徳具足せり。現身なる夢中説夢あり、説夢説法蘊なる夢中説夢あり。把定放行なる夢中説夢なり。直指は説夢なり、的当は説夢なり。把定しても放行しても、平常の秤子を学すべし。

学得するに、かならず目銖機両あらはれて、夢中説夢しいづるなり。銖両を論ぜず、平にいたらざれば、平の見成なし。平をうるに平をみるなり。すでに平をうるところ、物によらず、秤によらず、機によらず。空にかかれりといへども、平をえざれば平をみずと参究すべし。

みづから空にかかれるがごとく、物を接取して空に遊化せしむる夢中説夢あり。空裡に平を現身す、平は秤子の大道なり。空をかけ物をかく、たとひ空なりとも、たとひ色なりとも、平にあふ夢中説夢あり。解脱の夢中説夢にあらずといふことなし。夢これ尽大地なり、尽大地は平なり。このゆゑに回頭転脳の無窮尽、すなはち夢裏証夢する信受奉行なり。

釈迦牟尼仏言(釈迦牟尼仏言く)、
諸仏身金色、百福相荘厳。
(諸仏の身金色にして、百福の相荘厳あり)
聞法為人説、常有是好夢。
(聞法為人説するに、常に是の好夢有り)
又夢作国王、捨宮殿眷属、
(又夢に国王と作つて、宮殿眷属)
及上妙五欲、行詣於道場。
(及び上妙の五欲を捨て、道場に行詣す)
在菩提樹下、而処師子座。
(菩提樹下に在りて、師子の座に処し)
求道過七日、得諸仏之智。
(道を求むること七日に過りて、諸仏の智を得)
成無上道已、起而転法輪。
(無上道を成じ已つて、起つて法輪を転じ)
為四衆説法、径千万億劫。
(四衆の為に説法して、千万億を径)
説無漏妙法、度無量衆生。
(無漏の妙法を説いて、無量の衆生を度し)
後当入涅槃、如煙尽燈滅。
(後に当に涅槃入ること、煙尽燈滅の如くならん)
若後悪世中、説是第一法。
(若し後の悪世の中に、是の第一法を説かんに)
是人得大利、如上諸功徳
(是の人大利を得ること、上の諸の功徳の如くならん)

而今の仏説を参学して、諸仏の仏会を究尽すべし。これ譬喩にあらず。諸仏の妙法は、ただ唯仏与仏なるゆゑに、夢覚の諸法、ともに実相なり。覚中の発心修行菩提涅槃あり。夢裏の発心修行菩提涅槃あり。夢覚おのおの実相なり。大小せず、勝劣せず。

しかあるを、又夢作国王等の前後の道著を見聞する古今おもはくは、説是第一法のちからによりて、夜夢のかくのごとくなると錯会せり。かくのごとく会取するは、いまだ仏説を曉了せざるなり。夢覚もとより如一なり、実相なり。

仏法はたとひ譬喩なりとも実相なるべし。すでに譬喩にあらず、夢作これ仏法の真実なり。釈迦牟尼仏および一切の諸仏諸祖、みな夢中に発心修行し、成等正覚するなり。しかあるゆゑに、而今の娑婆世界の一化の仏道、すなはち夢作なり。七日といふは、得仏智の量なり。転法輪、度衆生、すでに径千万億といふ、夢中の消息たどるべからず。

諸仏身金色、百福相荘厳、聞法為人説、常有是好夢といふ、あきらかにしりぬ、好夢は諸仏なりと証明せらるるなり。常有の如来道あり、百年の夢のみにあらず。為人説は現身なり、聞法は眼処聞声なり、心処聞声なり。旧巣処聞声なり、空劫已前聞声なり。

諸仏身金色、百福相荘厳といふ、好夢は諸仏身なりといふこと、直至如今更不疑なり。覚中に仏化やまざる道理ありといへども、仏祖現成の道理、かならず夢作夢中なり。莫謗仏法の参学すべし。莫謗仏法の参学するとき、而今の如来道たちまちに現成するなり。

正法眼蔵夢中説夢第二十七

爾時仁治三年壬寅秋九月二十一日在雍州宇治郡観音導利興聖宝林精舎示衆
寛元元年癸卯三月廿三日書写(「己」の下に「十」という字) 侍者懐奘

※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。より分かりやすくする為に漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではありません。

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