文永11年(1274)、遊行・賦算をしながら、熊野へ向かっていた道中、ある出来事が一遍上人を思い悩ませます。熊野山中で出会った一人の僧に念仏札を受けるように勧めた時に、信心が起こらないので受け取れないと拒否されたのです。一遍上人は、ここでこの僧が念仏札を受けなければ、周りにいる他の人も念仏札を受けないのではないかと思い、無理にその僧に念仏札を与えました。
自らの布教方法に疑問を持った一遍上人は、すぐに熊野本宮証誠殿に参籠し熊野権現の啓示を仰がれます。すると、熊野権現が現れて次のように示されました。
「融通念仏を進める聖よ、どうして念仏を間違えて勧めているのか。あなたの勧めによって、全ての人々がはじめて往生するのではない。南無阿弥陀仏ととなえることによって全ての人々が極楽浄土に往生することは、阿弥陀仏が十劫という遠い昔、正しい悟りを得た時に決定しているのである。信心があろうとなかろうと、心が浄らかであろうとなかろうと、人を選ぶことなくその札を配るべきである。」
この熊野権現の神託によって一遍上人は他力本願の深意をさとられます。(成道)
時宗ではこの時をもって開宗と定めています。
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