曹洞宗の僧侶はいくつもの段階が厳格に決まっています。そして、ある程度たつと瑞世(ずいせ)という儀式をする為に横浜鶴見の大本山總持寺と福井の大本山永平寺の2箇所に拝登(お参り)します。そこで大本山を開かれた御開山拝登、並びに祝祷諷経(しゅくとうふぎん)と瑞世上供諷経(ずいせじょうぐふぎん)という朝の法要の導師を務めるこが瑞世という儀式の主な部分です。ですから、瑞世は一夜の住職、または一朝の住職といわれます。これによって寺院の住職になるための資格を両大本山が認めてくださったことになります。ですから、この儀式は一生に一回のものです。
3月23日午前中に寺を出発し、大阪より特急列車に乗り福井へ。福井駅に降り立つと雪は無いものの刺すような冷たい空気。北陸の冬は厳しい。えちぜん鉄道に乗換え永平寺口駅まで向かう。この鉄道は一両のみで走っているのだけれど、車掌さんの代わりにアテンダントと称する女性が車内で案内をしていた。サービスとしては親切なのだけれど、お客さんはあまり居なさそうだから人件費が大変だなと思った。また、乗車前の話に戻るが、切符売りの窓口も2つあって、自動券売機ではなかった。雇用創出?という訳でもないのだろうけど。
永平寺口駅から永平寺まではバスで15分ほど。次のバスが来るまで40分もあったので、1台だけとまっていたタクシーと交渉し、2400円で行けるというので乗せてもらった。永平寺には受付に入る時間が決まっていて出来るだけ早く余裕を持って入りたかったからだ。無事に永平寺に到着し、受付へ。受付では大学で同じ釜の飯を食い、机を並べた友人がいた。すっかり古参和尚(2年目以上の修行僧)で立派な姿だった。受付で諸手続きを済ませ待合室に通される。時間は2時半。今日は都合により16時まで待たなければならないとのことで、1時間半待っているしかなかった。
今回、瑞世するのは5人だった。これは多い数だ。今の時期は連日瑞世があり、人数も多くなるとのこと。待合室には私より少し早くに来ている瑞世師さんがいた。この方は何とメキシコから来られた方でメキシコ人だ。日本語も少ししか出来ないとのことで、筆談と互いに片言の言葉で交流した。しかし、10分程して永平寺の国際部担当の修行僧が来て、打合せのためかどこかに行ってしまった。1人になってしまったが、ひたすら待った。時間が経つにつれ人数がそろっていき、ちょうど4時に5人の瑞世師がそろった。
5人そろったところで案内されたのが瑞世師寮。広い部屋だった。そこで到着帳を毛筆で記入し、到着の拝という儀式をし、精進料理を食べ、明朝の瑞世の一通りの流れを指導してもらい、浴司(よくす:三黙道場の一。お風呂のこと)に入り時間となって寝ることになった。
3月24日 瑞世当日、この日は四九日(しくにち)のため朝の坐禅はなし。よって、5時起床。詳しい法要・儀式の内容は専門用語が多すぎるため説明は省略。一連の流れは8時くらいに終わった。嬉しいことに同じ教区寺院のお弟子さんが忙しい中、お祝いの言葉をかけに来てくださり感謝。その他、大勢の方に「おめでとう」といってもらい久しぶりに晴々とした気分になれた。
次の目的地は横浜鶴見の總持寺。永平寺を9時前には出発し、バスを乗り継いで急いで飛行場へ。小松空港11時50分発羽田行きに乗り込んだ。羽田空港に到着したのが13時だが、到着したのが第2ターミナルビルだったこともあり、かなりの距離を歩いた。羽田空港は移動が大変だ。鶴見には京急で行こうと計画していた。駅に着いたのが13時半。到着しなければいけない時間が14時から15時と決まっていたが、充分間に合う時間だ。
鶴見の駅前は何も変わっていなかった。ちょうど2年前、修行を終え、この駅から寺に戻った時と何ら変わらないようだった。そこから歩いて三門へ。思っていたより時間がかかったが受付にたどり着いた。受付の知客寮(しかりょう)のメンバーは殆んど変わっているものの雰囲気は変わっていなかった。受付で瑞世師到着帳に記入し、瑞世師寮に案内される。
時折、自分がいた時よりも和やかな上下関係が總持寺内に見えた。僕がいた時はもっと厳しかったなと思いつつ、その移り変わりも楽しんだ。3年前、僕と同じ時期に修行に入ったのは60名(同安居(どうあんご)という)。そのうち20名が残っているとのことで、忙しい中でも面会に来てくれる人が多く楽しかった。
總持寺の瑞世も、基本的には永平寺のそれと同じことをする。が、同じ曹洞宗でも歩き方一つとっても作法が違う。「出来て当たり前」の總持寺の方が緊張した。慣れているから大丈夫だと思っていたのだが、実際に法要をする場所に行き、一通りの流れを教えてもらっている時が一番緊張した。この一通りの流れを教えてくれるのが瑞侍(ずいじ)という役で、この役は簡単に離れないのだが、同安居者だった。彼も同安居の瑞侍をするのが初めてで、なかなか感動的だった。
色んな人と語らい、この日は10時に布団に入ったが…。
夜、眠れなかった。
永平寺ではグッスリ眠れたのだが…。
3月25日 4時起床。何とか瑞世の一連の流れを通せた。お世話になった先輩僧の顔もあちらこちらで見え、同安居のほとんどは法要を進行させる重要な役職についているため、2年越しに一緒に法要を完成させていくという作業は特別のものだった。法要の詳しい内容などは専門用語で埋め尽くされるため省略。
最後に受付のある香積台の前で見送りに来てくれた数人の同安居と共に記念撮影。これからも頑張っていこうという自信がついたように感じた。
今回の両大本山瑞世拝登(りょうだいほんざんずいせはいとう)は、曹洞宗の僧侶であるならば住職になるために必ず通らなければならない儀式ですが、その他にも、いくつかの段階を通って一人前の僧侶と認められていきます。主なものを次に順番に挙げておきます。ちなみに私は①得度から今回の④瑞世までに8年かかりました。
①得度をする
(とくど:頭を剃り、師匠の下、出家の身分になる)
②立身をする
(りっしん:修行道場で修行の先頭に立つ首座(しゅそ)を勤める)
③伝法をする
(でんぽう:師匠から弟子へ正しく伝えられてきた本質を確認する)
④瑞世をする
(ずいせ:両大本山の永平寺、總持寺において一夜・一朝の住職を勤める)
⑤住職になる
(寺院にて責任ある立場になる)
⑥晋山式をする
(しんさん:主に住職として寺院に正式に入ること)
⑦結制をする
(けっせい:釈尊の時代からある仏教の修行形態。一定期間、同じ場所で修行に努める。安居)