目の前の人のために出来ることをする

文献

『典座教訓』18、自然のまま喜びの心で引き受ける

おおよそもろもろのちじちょうしゅ、凡そ諸の知事頭首、およびとうしょく、さじさむのじせつ、及び当職、作事作務の時節、きしん、ろうしん、だいしんをほじすべ喜心、老心、大心を保持すべきものなり。いわゆる、きものなり。いわゆる、きしんとは、きえつのこころなり、喜心とは、喜悦の心なり。おもうべし、われもしてんじょうに想ふべし、我れ若し天上にしょうぜば、らくにあらわしてひまなし。生ぜば、楽に著して間無し。ほっしんすべからず。しゅぎょういまだ発心すべからず。修行未だびんならず。いかにいわんや便ならず。何に況んやさんぼうくようのじきをなすべけんや。三宝供養の食を作すべけんや。まんぽうのなか、万法の中、さいそん...
文献

『典座教訓』16、自他の境をとりはずす

まさにしるべしたいまだかつて応に知るべし佗未だかつてほっしんせずといえども、発心せずと雖も、もしひとりのほんぶんにんをみまわば、若し一の本分人を見ば、すなわちそのどうをぎょうとくせん。則ち其の道を行得せん。いまだひとりのほんぶんにんをみずと未だ一の本分人を見ずといえども、もしこれふかくほっしんせば、雖も、若し是れ深く発心せば、すなわちそのどうをぎょうようせん。則ち其の道を行膺せん。すでにりょうけつをもってせば、既に両闕を以てせば、なにをもってかいちえきあらん。何を以てか一益あらん。だいそうこくのしょざんしょじに、大宋国の諸山諸寺に、ちじちょうしゅのしょくにいるやからを知事頭首の職に居る族をみる...
文献

『典座教訓』8、ことに見合った細かい心配り

このごとくさんらいしさんきょして、此の如く参来し参去して、もしせんごうのぎさいあらば、如し纎毫の疑猜有らば、たのどうす、他の堂司、およびしょりょうのちょうしゅ、及び諸寮の頭首、りょうしゅ、りょうしゅそとうにとい、寮主、寮首座等に問い、うたがいをしょうしきたってすなわち疑を銷し来って便ちしょうりょうすらく、商量すらく、いちりゅうべいをきっするに、一粒米を喫するに、いちりゅうべいをそえ、一粒米を添え、いちりゅうべいをわかちうれば、一粒米を分ち得れば、かえってりょうこのはんりゅうべいをえる却て両箇の半粒米を得。さんぶん、よんぶん、いちはん、三分、四分、一半、りょうはんあり。たのりょうこの両半あり。他...
文献

『正法眼蔵随聞記』63、唐の太宗即位の後

一夜示して云く、唐の太宗即位の後、旧き殿に栖み給えり。破損せる間、湿気あがり、侵して玉躰侵さるべし。臣下作造るべき由を奏しければ、帝の云く、「時、農節なり。民定めて愁あるべし。秋を待って造るべし。湿気に侵されば地に受けられず、風雨に侵されば天に叶わざるなり。天地に背かば身あるべからず、民を煩わさずんば自ら天地に叶うべし。天地に叶わば身を犯すべからず。」と云って、終に宮を作らず、古き殿に栖み給えり。況んや仏子は、如来の家風を受け、一切衆生を一子の如くに憐れむべし。我れに属する侍者所従なればとて、呵嘖し煩わすべからず。何に況んや同学等侶耆年宿老等を恭敬する事、如来の如くすべしと、戒文分明なり。然れ...
文献

『正法眼蔵随聞記』106、学人各々知るべし

示して云く、学人各々知るべし、人々一の非あり、憍奢是れ第一の非なり。内外の典籍に同じく是れをいましむ。外典に云く、「貧しくしてへつらわざるはあれども、富みておごらざるはなし。」と云って、なお富を制しておごらざる事を思うなり。この事大事なり。よくよく是れを思うべし。我が身下賤にして人におとらじと思い、人に勝れんと思わば憍慢のはなはだしきものなり。是れはいましめやすし。仮令世間に財宝に豊かに、福力もある人、眷属も囲繞し、人もゆるす、かたわらの人のいやしきが、これを見て卑下する、このかたわらの人の卑下をつつしみて、自躰福力の人、いかようにかかすべき。憍心なけれども、ありのままにふるまえば、傍らの賤し...
文献

『正法眼蔵随聞記』68、某甲老母現在せり

また僧云く、某甲老母現在せり。我れは即ち一子なり。ひとえに某甲が扶持にて度世す。恩愛もことに深し。孝順の志も深し。是れに依っていささか世に順い人に随って、他の恩力をもて母の衣粮にあづかる。もし遁世籠居せば一日の活命も存じ難し。是れに依って世間に在り。一向仏道に入らざらん事も難治なり。もしなおただすてえて道に入るべき道理あらば、その旨何なるべきぞ。示して云く、この事難治なり。他人の計らいにあらず。ただ我れ能く思惟して、誠に仏道に志あらば、何なる支度方便をも案じて、母儀の安堵活命をも支度して仏道に入らば、両方倶によき事なり。強き敵、深き色、重き宝なれども、切に思う心ふかければ、必ず方便も出来るよう...
文献

『正法眼蔵随聞記』83、伝へ聞きき、実否を知らざれども

示して云く、伝へ聞きき、実否を知らざれども、故持明院の中納言入道、ある時秘蔵の太刀を盗まれたりけるに、さぶらひの中に犯人ありけるを、余のさぶらひ沙汰し出してまひいらせたりしに、入道の云く、「是れは我が太刀にあらず、ひが事なり。」とてかえしたり。決定その太刀なれども、さぶらひの恥辱を思うてかえされたりと、人皆是れを知りけれども、その時は無為にて過ぎし。故に子孫も繁昌せり。俗なお心あるは是の如し。いわんや出家人は、必ずこの心あるべし。出家人は財物なければ智恵功徳をもて宝とす。他の無道心なるひが事なんどを直に面にあらわし、非におとすべからず。方便を以てかれ腹立つまじきように云うべきなり。「暴悪なるは...
文献

『正法眼蔵随聞記』33、もし人来って用事を云う中に

夜話に云く、もし人来って用事を云う中に、あるいは人に物を乞い、あるいは訴訟等の事をも云わんとて、一通の状をも所望する事出来有るに、その時、我は非人なり、遁世籠居の身なれば、在家等の人に非分の事を謂わんは非なりとて、眼前の人の所望を叶えぬは、その時に臨み思量すべきなり。実に非人の法には似たれども、然有らず。その心中をさぐるに、なお我れは遁世非人なり、非分の事を人に云はば人定めて悪しく思いてんと云う道理を思うて聞かざらんは、なお是れ我執名聞なり。ただ眼前の人の為に、一分の利益は為すべからんをば、人の悪しく思わん事を顧みず為すべきなり。このこと非分なり、悪しとてうとみもし、中をも違わんも、是のごとき...
文献

『正法眼蔵随聞記』87、昔、国皇あり

示して云く、昔、国皇あり。国をおさめて後、諸臣下に告ぐ。「我れよく国を治む。賢なり。」諸臣皆云く、「帝は甚だよく治む。」一りの臣ありて云く、「帝、賢ならず。」帝の云く、「故如何。」臣が云く、「国を打ち取りし時、帝の弟に与えずして息に与う。」帝の心にかなわずしておいたてられて後、また一りの臣に問う、「朕よく心帝なりや。」臣云く、「甚だよく仁なり。」帝云く、「その故如何。」云く、「仁君には忠臣あり、忠臣は直言あるなり。前の臣、はなはだ直言なり。是れ忠臣なり。仁君にあらずは得じ。」即ち帝、これを感じて前の臣をめしかえされぬ。また云く、秦の始皇の時、太子、花園をひろげんとす。臣の云く、「もっともなり。...