『正法眼蔵随聞記』87、昔、国皇あり

文献

示して云く、昔、国皇あり。国をおさめて後、諸臣下に告ぐ。「我れよく国を治む。賢なり。」
諸臣皆云く、「帝は甚だよく治む。」
一りの臣ありて云く、「帝、賢ならず。」
帝の云く、「故如何。」
臣が云く、「国を打ち取りし時、帝の弟に与えずして息に与う。」

帝の心にかなわずしておいたてられて後、
また一りの臣に問う、「朕よく心帝なりや。」
臣云く、「甚だよく仁なり。」
帝云く、「その故如何。」
云く、「仁君には忠臣あり、忠臣は直言あるなり。前の臣、はなはだ直言なり。是れ忠臣なり。仁君にあらずは得じ。」
即ち帝、これを感じて前の臣をめしかえされぬ。

また云く、秦の始皇の時、太子、花園をひろげんとす。
臣の云く、「もっともなり。もし花園をひろうして鳥類多くは、鳥類をもて隣国の軍をふせいつべし。」
よってその事どどまりぬ。

また宮殿をつくり、階をぬらんとす。
臣の云く、「もっとも然るべし。階をぬりたらば敵はとどまらん。」よってその事もとどまりぬ。
云う心は、儒教の心是のごとし。たくみに言を以て悪事をとどめ、善事をすすめしなり。衲子の人を化する意巧としてその心あるべし。

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『正法眼蔵随聞記』

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