夏のある日
お寺の呼び鈴がなる
弟子が出ると
名乗った上で
よろしくお願いします
と
だけ言われ
お布施を差し出される
お師匠さんに来客を告げると
顔だけだし
お墓の前でお経を読んできなさい
と弟子に言う
急いで
衣を整え
携帯用の木魚と鈴を手に持ち
境内墓地へ
あるお墓の前で
般若心経を読む
読経と回向が終わると
来客が般若心経を読み始めた
お師匠さんの読み方とも違い
CDか何かを再生しているような
そのような印象で
横で聞いていて
上手いなと感じつつ
気まずい
気持ちの方が
大きかっただろう
後で
お師匠さんに聞くと
交通事故の
その相手のお墓だったのだ
毎年
命日にお参りに来るとのこと
そういうことは
先に言ってほしい
とは
弟子はお師匠さんに
言えない
聞いていたからと言って
お坊さんは
誰の供養でも
同じようにお経を読む
しかし
あの来客のお経は
そうでは
ないのだろうな
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