955 サーリプッタさんが言った、
「わたくしは未だ見たこともなく、また誰からも聞いたこともない。このように言葉美わしき師(ブッダ)、衆の主がトゥシタ天から来りたもうたことを。
956 眼ある人(ブッダ)は、神々及び世人が見るように、一切の暗黒を除去して、独りで法楽を受けられた。
957 こだわりなく、偽りなく、このような範たる人として来りたもうた師・目ざめた人(ブッダ)であるあなたのもとに、これらの束縛ある多くの者どものために問おうとして、ここに参りました。
958 修行者は世をいとうて、人のいない座所や樹下や墓地を愛し、山間の洞窟の中におり、
959 または種々の座所の内にいるのであるが、そこにはどんなに恐ろしいことがあるのだろう。修行者は音のしないところに坐臥していても、それらを恐れて震えてはならないのだが。
960 未到の地に赴く人にとっては、この世にどれだけの危難があることだろう。修行者は辺ぴなところに坐臥していても、それらの危難にうち克たなければならないのだが。
961 熱心につとめる修行者には、いかなる言葉を発すべきか?ここで彼の振る舞う範囲はいかにあるべきか?彼のまもる戒律や誓いはどのようなものなのですか?
962 心を安定させ気を落ち着けている賢者は、どのような学修を身に受けて、自分の汚れを吹き去るのですか?たとえば鍛冶工が銀の垢を吹き去るように。」
963 師(ブッダ)は答えた、
「サーリプッタよ。世をいとい、人なき所に坐臥し、悟りを欲する人が楽しむ境地および法に従って実践する次第を、わたくしの知り究めたところによって、そなたに説き示そう。
964 しっかりと気を付け分限を守る聡明な修行者は、五種の恐怖におじけてはならない。すなわち襲いかかる虻と蚊と爬虫類と四足獣と人間(盗賊など)に触れることである。
965 異った他の教えを奉ずる輩を恐れてはならない。たとい彼らが多くの恐ろしい危害を加えるのを見ても。また善を追求して、他の諸々の危難に打ち勝て。
966 病いにかかり、餓えに襲われても、また寒冷や酷暑をも耐え忍ぶべきである。かの家なき人は、たといそれらに襲われることがいろいろ多くても、勇気を保って、堅固に努力を為すべきである。
967 盗みを行なってはならぬ。虚言を語ってはならぬ。弱いものでも強いものでもあらゆる生きものに慈しみを以て接せよ。心の乱れを感ずる時には、「悪魔の仲間」であると思って、これを除き去れ。
968 怒りと高慢とに支配されるな。それらの根を掘りつくしておれ。また快いものも不快なものも、両者にしっかりと、打ち克つべきである。
969 智慧をまず第一に重んじて、善を喜び、それらの危難に打ち勝て。奥まった土地に隠れる不快に堪えよ。次の四つの憂うべきことに堪えよ。
970 すなわち『わたしは何を食べようか』『わたしはどこで食べようか』『昨夜はわたしは眠りづらかった』『今夜はわたしはどこで寝ようか』、家を捨て道を学ぶ人は、これら四つの憂いに導く思慮を抑制せよ。
971 適当な時に食物と衣服とを得て、ここで少量に満足する為に、衣食の量を知れ。彼は衣食に関してほしいままならず、慎しんで村を歩み、罵られても荒々しい言葉を発してはならない。
972 眼を下に向けて、うろつき廻ることなく、瞑想に専念して、大いにめざめておれ。心を平静にして、精神の安定を保ち、思いわずらいと欲の願いと過ちを後悔して残念がることとを断ち切れ。
973 他人から言葉で警告された時には、心を落ちつけて感謝せよ。ともに修行する人々に対する荒んだ心を断て。善い言葉を発せよ。その時に相応しくない言葉を発してはならない。人々をそしることを思ってはならぬ。
974 またさらに、世間には五つの塵垢がある。よく気を付けて、それらを制する為につとめよ。すなわち色かたちと音声と味と香りと触れられるものに対する貪欲を抑制せよ。
975 修行僧は、よく気を付けて、心もすっかり解脱して、これらのものに対する欲望を抑制せよ。彼は適当な時に理法を正しく考察し、心を統一して、暗黒を滅ぼせ。」
と師(ブッダ)は言われた。
<八つの詩句の章>第4おわる
まとめの句
欲望と、洞窟と、悪意と清浄と、最上と、老いと、メッテイヤとバスーラと、マーガンディヤと、死ぬよりも前にと、争闘と、二つの並ぶ応答と、迅速と、武器を執ることと、サーリプッタの質問とで、十六になる。
これらの経は全て<八つの詩句の章>である。
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※このページは学問的な正確性を追求するものではありません。前知識のない一般の方でも「読んでみよう!」と思ってもらえるよう、より分かりやすく読み進めるために編集しています。漢字をひらがなに、旧字体を新字体に、送り仮名を現代表記に、( )にふりがなをつけるなど、原文に忠実ではない場合があります。
なお、底本としてパーリ語経典の『スッタニパータ』を使用していますが、学問的な正確性を追求する場合、参考文献である『「ブッダの言葉」中村元訳 岩波文庫』を読むようおすすめします。なお、章題/節題は比較しやすいよう同じにしました。
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